07.狼紳士
柄や人相の悪い人々を見るのは実は慣れている。
父が経営し自らも通う鳳凰学園には見た目がいかつい生徒も多く在籍しており、口を利くこともそれなりにある。
しかし彼らが怖いのは見た目だけで、話してみると非常に純朴な優しい青年ばかりだ。
だから、多少素行や柄が悪くてもそれは外見に過ぎないはず。
はふらりと現れた陽虎学園の王(仮)を見据え、眉を潜めた。
予想よりも普通、いや、むしろ柄の悪さとは程遠い優男が目の前にいる。
優男の中身はわからない。
優男にはあまり係わるなと兄と父から散々言われ隔離されてきたので対応に困る。
対処しきれず固まっているのを恐怖あるいは警戒と受け取ったのか、優男はまあまあと言い軽く手を上げるとへ歩み寄った。
「その制服、あんた鳳凰の子だろ。ここがどこかわかってのお散歩かい?」
「散歩ではございません・・・。わたくしは物を探しているのです」
「へえ? ここを探してるってことは前もここに来たことがあるってわけかい。
あんた結構度胸あるんだねえ」
「目的を達するためであれば、何も厭いません」
「そりゃまた勇ましいことで。でも、ここは俺ら陽虎の縄張りだ。
無事で帰れる・・・かどうかはあんた次第だけど覚悟はしといた方がいいかもしれないね」
「陽虎学園の方々と事を荒立てるつもりは毛頭ございません。もちろん縄張りを荒らすつもりも。
なればこそお訊きします、この辺りで青い髪飾りを見かけませんでしたか?」
へらへらと捉えどころのない笑みを浮かべていた青年がすっと笑顔を引っ込め、真剣な表情になり天を仰ぐ。
ああ、あれかな?
青年の呟きを聞き洩らさなかったは、あれとはと間髪入れず尋ねた。
「お心当たりがあるのであればお教えください、あれはわたくしの大切なもの」
「・・・あるね、心当たり。でもただで教えてやるのはちょっと割に合わないかな」
「・・・取引をご所望ですか」
「あんたの学校、今度人魚姫やるんだって? その姫様役の子が大層美人って噂じゃないか」
「ただの噂です」
「おや嫉妬かい、可愛いねえ。男ってのは美人が好きだからね、その子を今度うちに連れてきなよ。
そしたら返してやるよ、あんたの大切な物」
「・・・・・・」
「どうだい? 姫様を連れて来られるかい?」
「・・・それがお望みとあらば」
噂がどこから広まったのかはわからないが、彼は姫を見ればきっと幻滅する。
しかし見せて連れて来たことには変わりはないので、取引が成立することに違いはない。
は凌統と名乗った青年から背を向けると、唇を噛み締めながら帰途に就いた。
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