03.濡れた瞳が映していたもの
今ある世界を削ぎ落して、新たな世界をつくろうしていているようだ。
歪み切った不条理な真実に反旗を翻した美しい虚構が、天の力を借りているように見える。
ここは、偽りと真実の狭間なのだと思う。
目の前にいるのは現実には存在しない愛しい人だが、自分自身は現実を生きることができる人間だ。
昔から愛する人とは夢の中でしか触れ合えなかった。
夢が現実になることはなく、目が覚めたらいつも強力なライバルその他が彼女を独占していた。
いつも人々に囲まれ笑っていた彼女が、今は1人でぽつんと空を見上げている。
まるでこちらが見えていないかのように、ただただぼうっと真実と嘘のせめぎ合いを眺めていた。
「・・・何を、している?」
「これからどうすべきか考えてるの」
「これから?」
「変よね。明日にはまたおひさまが昇ってるはずなのに、私には明日が来ない気がするの」
「ああ、変だ。明日は来るに決まっている」
「そーう?」
もしも来なかったら、来ないってことは、それってつまり私は今日で終わっちゃうってことなのかなあ?
ぼんやりとした口調で尋ねてくるそれは残酷で、夢のはずなのに夢ではない冷たさを孕んでいる。
私やっぱり変かも。
そう言って小さく笑った彼女の眼元がきらりと光った気がして、思わず手を差し伸ばした。
「1人で明日に行けないのなら俺が連れて行こう。同じ景色を見て歩くのは俺の夢だ」
「ほんとに?」
「ああ、嘘はつかない。嘘はいらない、欲しいのは笑っていられる本当の明日だ」
このまま星が全部落ちて空が剥がれてしまえば、必ず明日はやってくる。
重ねられた柔らかな手は温かかった。
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