07.深い海に溺れるように
賢者一族に取ってそうでない人間とは、何なのだろうか。
一族の者すべてがそうだとは言わないが、一部の者は大地でただ生きているだけの劣等民とでも思っていそうだ。
特にアリシアのように大した魔力を持たない者のことなどは、存在自体認めたくないかもしれない。
アリシアはやたらと皮肉めいて呼ばれた名に、はいとぎこちなく返した。
「アリシア殿、ミモスはいずこへ行かれた?」
「さあ・・・。忙しいのではないかしら、最近見ませんし」
「ほう、あのミモスが忙しいとはあれにも成せる仕事があったということか」
「当主なのでしょ? 忙しくないわけがないでしょう」
「当主。はっ、あれを当主と認めるとはお前、アレフガルドの民を地獄へ落とす気か?」
「は?」
アリシアの故郷はリムルダールだ。
待ちの長は長老と呼ばれる老人で、人々は皆彼を慕っていた。
少なくとも彼を蔑むような者は1人もいなかった。
ミモスが誰が何と言おうと一族の主だ。
彼にわかりやすい力はなくても一族とアレフガルドを守る優しい賢者だ。
なぜ彼は、いや、この男だけではない。
一族の者はミモスを認めないのだろうか。
アリシアはミモスが誰よりも優しいことを知っていた。
誰よりも他人思いで、測れない見えない力を持っていることを知っていた。
「彼のことを悪く言うのはやめて、彼は私の命の恩人なの」
「ふざけたことを言うな。・・・そうだな、奴を命の恩人というのであれば見せてもらおうか。
お前を救うあいつとやらを」
聞き慣れない呪文を唱えられ、不意に呼吸が苦しくなる。
息ができない、助けて。
アリシアの意識は暗闇の中へ落ちていった。
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