2.いつだって世界の中心
どーんと派手な火柱が屋敷の裏庭から上がる。
あの(目に入れても痛くないほど可愛い)娘め、また悪い友人(自称彼氏)に感化されてしまったのか。
むさ苦しい男どもに囲まれるのは嫌だろうと思い箱入り娘として育ててきたが、失敗とまではいかずとも少しやりすぎてしまったかもしれない。
自慢も多分も含まれるが、我が校にも見目麗しく文武に秀でた男は数多いる。
わざわざ余所の学校で作らずとも、こちらが許すかどうかはさておいても彼氏も愛人も思い存分つくり放題だ。
そうだというのになぜ、わしの娘は。
見知った男ならば『迂闊であった・・・!』などとぼやき左遷あるいは転属などさせていたかもしれないが、その権限すら及ばない見知らぬ男は危険分子でしかない。
あんなに器量良しの娘なのだから、誰も放っておかぬはずなのにいったい何をしていたのだ、わしの部下どもは。
理解しがたい悩みを側近の眉目秀麗筆頭にぼやいた曹操は、淀みなく返ってきた正論を前に机に突っ伏した。
「殿のご息女なのです。皆が恐れ慄き敬遠するのも道理かと」
「わしの娘とお近付きになればわしとも接近できて将来安泰などと考える者すらおらぬのは、よもや皆はに難があるとでも思うておるのではないか」
「殿が極めて優れた方であるとは私も断言いたします。第一、仮にそのような者が現れたとしても殿は真っ先に排除なされるでしょう。
曹休殿はともかく、曹丕殿の目は非常に厳しいと聞きます」
時に負傷者すら出すほどだった執拗な妨害の手を掻い潜り辿り着けたのが、他校の生徒だけだったのだ。
曹孟徳の娘バカぶりを真に知らないからこそできた無茶であるとも思う。
他を顧みない無鉄砲ぶりは不安になるしが活き活きと武芸の鍛錬に励むようになったのは不安になるが、現状彼しかいないのだ。
それにまだ外泊などしていない清い仲であるようだから、温かく見守ってやっていい段階だと思う。
朝帰りしたその時は、生暖かい大会など飛び越えて徐州もやむなしと進言するつもりだ。
「しかしあれも恐ろしい家庭教師を持ったものよのう・・・。荀ケよ、が気になるのはわかるがお主も相当に目立つ容姿ゆえ尾行の際は重々気を付けよ。
もっと遠くから見守ってもらえないかとが言うておったぞ」
「恐れ入ります・・・」
気付かれていたのであれば仕方がない、次はもっと忍んで行けばいいだけだ。
そうと決まれば、まずはもう少し街中でも目立たない格好とやらを研究せねばなるまい。
荀ケは曹操の執務室を離れると、市井の生活に明るい甥へメールをしたため始めた。