5.また明日、会えますように
視線だけでもと目で追っていると、気付かれたのかくるりと振り返る。
ごきげんようローラ姫とからりと声をかけられ、ただそれだけなのに心がきゅんとする。
陽の光を未だ見たことはないが、これが光かと思ってしまうような明るさに全身が包まれる。
もちろん相手は気付きもしていまい、彼にとって『ローラ姫』とは居候先の王宮に住まう女主人にすぎないのだから。
彼の目はいつだって世界と魔王にしか向けられていない。
「恋する乙女の瞳ってのは、いつ見ても宝石のようですねえ」
「・・・バース殿はなぜまだこちらに?」
「おや手厳しい。今日はリグとエルファが資材調達係なんですよ。
俺とライムは引き続き調査班。いやあ、頭を使うってのは疲れる」
「ご老体ですものね、バース殿は」
「それは言わないお約束って知ってます、ローラ様? 姫はリグ以外にはどうにも辛辣すぎる」
違う、バースにだけは強く当たってしまうのだ。
アレフガルドを見捨て愛する女性の元へ奔ってしまった男を、アレフガルドを治める主の一族として許すことができないのだ。
彼が善人だとか悪人だとかではない。
そうでなければならないとはおそらくバースもわかっているのだろう。
からかいはすれど、詰ることはない。
「リグ様はいつ、こちらを発たれるのでしょう」
「近いうちですよ。・・・大丈夫、勇者は俺が守ります、たとえ何があろうと」
「リグ様が勇者でなくとも?」
「愛する友人をみすみす死なせるようなことを俺がするとでも? 俺は愛に生きる男ですよ、見くびってもらっちゃ困ります」
「・・・しませんね。あなたは、たとえ己が身に何が起ころうと愛する人だけは守り抜くお方。
アレフガルドのことも愛している・・・でしょう?」
「当然。俺の居場所はとこしえにアレフガルドに」
苦手な男だが、信頼できない男ではない。
ローラはバースから視線を逸らすと、城外でエルファと共にけたたましく雷鳴を轟かせているリグを見つめた。