お題・1
01.自制心の話じゃない



 この世界にはまだ、謎が多く隠されている。
精霊が作りたもうたかつての楽園には、神でも魔物でも人でもない生き物が生きている。
彼は人なのだろうか。
あるいは、人の形にもなれる魔物なのだろうか。
ドラゴンから姿を変えただの傷ついた人間になった青年をアリシアはじっと見下ろした。
とても息が荒く、なんとかして酸素を取り込もうともがいているようだ。
苦しそう。
アリシアはそう呟くと、ゆっくりと腰を屈めた。




「苦しいの? 大丈夫?」

「・・・る、な・・・」

「え、なぁに? 聞こえないわ」

「・・・私に近寄るな!」

「それは・・・・・、あなたがドラゴンだから?」
「・・・知ってしまったのならば今すぐここを去れ」

「あら、それはこちらの台詞よ。ここは私たちリムルダールの民の狩場。
 あなた、町の人じゃないわね。出て行くのはそちらじゃなくて?」

「・・・・・・」




 ぴしゃりと言い放ったのが効いたのか、男が黙り込む。
ようやく落ち着いた呼吸の元で囁かれ、淡い光を発した手に少しだけ驚く。
ドラゴンになれるだけではなく、治癒呪文も使えるとはますます興味深い。
アリシアはよろよろと立ち上がり森の外へと歩き始めた男へぴたりと張りついた。



「・・・何をしている」

「私も外に出るの。知ってるでしょ、この森にはリカントが出るの。
 でもドラゴンと一緒なら襲われても平気でしょう?」

「・・・お前は真に恐れるものを間違えている」




 私は化け物だぞ。
まるで自らを呪うように重く暗い声で漏れた言葉に、アリシアはそうかもねとだけ返した。





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