03.虜にしてしまえ



 大きく深呼吸して、ゆっくりを顔を上げる。
約束の日、約束の場所にきちんと現れたこちらを少なからず相手は驚いているようだ。
相手に付け入る隙を与えるなというのは曹一族の家訓だ。
来いと言ったのは向こうだから、驚く必要はあるまい。
は真っ直ぐ男を見据えると、約束の刻限ですと答えた。



「まさか、ご自分がおっしゃったことをお忘れではありますまい」

「まあ、もちろん。
 でも俺が呼んだのはあんただけじゃなくてもう1人、姫さんなんだけどな」



 やっぱり口説き落とせなかったのかいと尋ねられ、わずかに眉を潜める。
そこまで自分が姫らしく見えないのかと思うと悲しくなる。
これでも厳しいお嬢様教育を受けてきたのだが、まだ立ち居振る舞いに粗相があるのだろうか。
悲しいけれどもこれが現実だ。
は淡く笑うと、わたくしではお気に召しませんかと問い返した。



「あなたがお探しの姫君がわたくしだと言ったら・・・、あなたはさぞやお嘆きになるのでしょうね」

「・・・え?」

「わたくしが、あなたが夢見た噂とはかけ離れた姫役です。
 あなたが姫役に何をなさるのか存じ上げかけますが、これで取引は成立したということでよろしいでしょうか」




 どれだけ失望されようと、今更そんなものはもうどうだっていい。
大切なのは失くしてしまったものを取り返すことで、見てくれとちやほやされることではない。
はよほど衝撃だったのか、俯いて黙りこくっている男にすいと詰め寄った。




「わたくしに、わたくしが探しているものの在り処を教えていただけますね」

「それは・・・・・・したく、ない」




 なぜなら、俺は姫役をただで帰すつもりはなかったからね。
おいでという言葉と共に手を握られたは、抵抗する間も与えられず陽虎学園の奥へと消えていった。




元に戻る