06.すべての始まりだから、ね
神ではなく、もちろん人でもなく、しかし魔物や動物でもないと言われる種族がひとつだけある。
時に神と共に戦いあるいは神のように崇められ、時に強大な力をもって人々を苦しめていた神話の時代から生きるあれは、
どうやら光閉ざされた世界においても生き延びていたようだ。
なんと神々しく光々しく、そして暗い目をした生き物だろうか。
太陽を失っていてもなお輝きを放つ巨大な白銀のドラゴンに、アリシアは目を離すことはできなかった。
「すごく、綺麗・・・」
「アリシア、危ない!」
「え・・・?」
絹を裂くような悲鳴が聞こえ、アリシアは反射的に声のした方を振り返った。
目の前にリカントの鋭い牙と大きく開かれた口が飛び込んでくる。
食いちぎられる。
思わず目を閉じようとしたアリシアは、そうする直前に耳を襲ったぐしゃあという肉が潰される音に小さく叫んだ。
顔にびしゃりと、ぬめぬめとした何かが付着する。
リカントの体液だ。
獣臭い粘つく体液にそっと触れたアリシアは、ぐらりとしゃがみ込んだ。
変わり者で怖いもの知らずのアリシアが、びっくりしすぎて立てなくなってしまった。
「・・・ドラゴンって、魔物食べるのね・・・」
ぽそりと呟くと、リカントを加えたままのドラゴンがゆっくりとこちらへ首を動かす。
私も食べられちゃうのかな、私は肉付き悪い人間だから美味しくないのに。
「私も食べるの? 私、美味しくないわよ・・・」
ねえ、どうして恐ろしいのにあなたはこんなに悲しげに啼くの。
アリシアの問いかけに答えることはなく、ドラゴンが白い光に包まれた。
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