08.かき乱していい?
不良の溜まり場にしては小奇麗だ。
手を取られ強引に校内へと連れて行かれた時は何が起こるのかと覚悟も決めたが、不良は意外と真面目だったのかもしれない。
は冷蔵庫から出されたペットボトルのお茶を受け取ると、ちらりと賞味期限を見た。
大丈夫だ、どうやら買ったばかりのものらしい。
「このような所にまで連れて来て、いったいどういうおつもりですか」
「あんたと2人でお話するおつもりです」
「ふざけないで下さい」
「ふざけてなんかないっつの。俺は本気で姫さん役のあんたと話がしたいんだよ」
「わたくしがあなたからお訊きしたいことはただ一つ、わたくしの大切なものの在り処です」
「さすがにいわくつきの姫さんだ、つれないねえ」
「・・・・・・」
「あっ、嫌機嫌悪くしないでくれ! 大切なもの大切なもの・・・・・・、これ?」
「違います」
財布、時計、定期入れ、電子辞書。
学校に届けられたらしいありとあらゆる拾得物を見せられるが、どれも探していたものと違う。
無駄足だったようだ。
はすいと立ち上がると、つられて慌てて立ち上がった凌統を冷ややかに見つめた。
「ここにわたくしの探しているものはありませんでした。わたくしが探していたのは緋色の紐。
かつて、名も知らぬ方が下さったとても大切な宝です」
「紐・・・? それは、もしかして」
「もうこの場にわたくしが、無論姫としてのわたくしが来ることもありますまい。さようなら、凌統殿」
ちょっと待ってくれ、その紐ってこれじゃないのか!?
凌統の叫び声がに聞こえることはなかった。
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