3.欲しいと言えない
リグは武器屋の前で立ち止まっていた。
ショーケースの中では、聖なる十字架をあしらった美しい剣が光り輝いている。
欲しい、と思った。
装飾の重厚さもさることながら、切れ味も抜群に見えた。
この剣で斬りつけられた死霊はひとたまりもあるまい。
抱いて眠れば厄除けにもなるかもしれない。
心霊現象を目の当たりにしたり、1人幽霊を見てげんなりすることもなくなるかもしれない。
しかし、高すぎる。
そりゃ神聖な剣なのだから多少の値は張るだろうが、いきなり高騰した気がしないでもない。
最後に買った鉄の斧の4倍はする。
未来の天下の鍛冶職人(仮)ヤマトに鍛え上げてもらったプライスレスの草薙の剣をずっと装備していたから、
武器の金銭感覚を失っていた。
これを自分とライム用に買ったら、当分の宿屋代もなくなってしまう。
リグは懐の軽すぎる財布の中身を確認した。
これが欲しいと言って、果たしてバースとエルファは良しと言ってくれるだろうか。
これ買うなら外でちょっと頑張って、魔法の鎧2着買ってくれとかせがまれそうだ。
「・・・おじさん、このゾンビキラー2本買うから2000Gくらい安くしてくれる?」
「悪いねぇ兄ちゃん。世界武器防具連合会規則第32条4項で、商品の安売りはしちゃいけないって決まってんだよ」
「・・・嘘」
「いやマジで。これに違反すると、おじさん明日から妻息子3人路頭に迷っちゃう」
善良な商人を職なしにするわけにはいかない。
リグは名残惜しげにショーケースを見つめると、一度武器屋を後にした。
旅を始めてから何度目かもわからない緊急財政会議を開くために。
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