6.いくらなんでもはしたない
すうっと呼吸して、壇上に設けられた席に座っている曹魏の公主を見つめる。
今から吟じるのは、他の誰でもない彼が最も愛する公主への想い。
本人とその父親の前で歌うのはなんとも恥ずかしいし妙な気分だが、今を逃せば次の機会がいつ来るかわからない。
宴席、一発芸大会という無礼講の場を最大限に生かすべきだった。
頑張れ、俺。
凌統は自分自身に無意味にエールを送ると吟じ始めた。
「気取らないありのままの微笑みがぁぁぁぁぁ、艶やかな黒髪に生える真紅の髪紐と合わさってぇぇぇぇぇ、
そのあまりの美しさに直視できない壇上の俺の姫君ぃぃぃぃぃ」
少し上の方からなにぃっ、と叫ぶ中年親父の声が聞こえる。
絶叫の後に、落ち着いて下さい父上と宥める可憐な声。
突然の告白に曹操が驚き、隣の愛娘が慌てて静止を呼びかけたのだろう。
見ずともわかる父娘のやり取りを前に凌統は苦笑した。
優勝はもう決まったようなものだ。
バッチリしっかり女性の心を鷲掴んだし、こうすればあんたらもモテるんだよと丁寧に男性諸君に教えてやったのだ。
感謝状も一緒にいただきたいくらいである。
「・・・凌統殿、いくらここが無礼講の場とはいえ、あまりに露骨すぎます!」
「そうかい? でも、時には強引に攻めないと欲しいものは手に入らないんだよ」
「ええぃお主わしの娘に手を出しおって! しかもかように人の多くいる中での行為、はしたないとは思わぬのか!?」
「人様の花嫁攫ってくるような親父殿にはしたないと言われたくはないねぇ」
「父上! 凌統殿も!!」
誰に何と言われようが、どんなにはしたなかろうが俺は思いを遂げてやる。
ちょっとした混乱の中優勝商品を手に入れた凌統は、その足でプレゼンターも兼ねている姫君を攫い会場を飛び出し、
そして甘い甘い夢のような夢から目覚めたのだった。
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