01.香り、ひらり
何を普通と言うのかわからないが、少なくとも血の臭いと獣の臭いを嗅ぎ分け行動してしまう娘は普通ではないと思う。
夫もそれについては褒めはしないが決していい顔はしない(悲しげに笑う)し、
兄たちも申し訳なさそうな顔しかしない。
自分でも変だ、おかしいと思う。
思っていても染みついてしまった以上はもう、一生付き合っていくしかないのだが。
「でも身を守るにはいいと思うんです」
「成都にいれば安全だと何度言えばわかるのだ・・・」
「成都にいれば安全、ねえ・・・」
成都だからこそ密偵はよく忍び込むし、それで一時は生死を彷徨った口が何を言うのだ。
そんな表情で見ていたのか、こちらを見下ろしていた夫が慌てて当時の弁明を始める。
今更終わったこと、弁解など求めていないのに真面目な男だと思う。
だから騙されたのだとは、こちらもやはり今更なので言わないが。
「何も知らないよりはいいと思います、知識はあるに越したことないですよ」
「それは知識とは言えない・・・」
「じゃあ常識です、うちの」
「・・・・・・今度、馬超殿とよくよく話し合っておくことにする」
「喧嘩は駄目ですよ、槍とか持ちだす話し合いは話し合いって言いませんからね!」
はて、兄と夫の戦績は五分くらいだっただろうか。
たまには兄上を応援しようかなと呟くと、夫が真っ赤な顔でやめてくれと叫んだ。
元に戻る