03.落ちぶれた正義を振りかざす
私は別に、マルチェロさんが悪人だとは思ってないです。
愛想を振りまくわけでも媚びへつらうわけでもなく、ただ、無邪気ともいえる笑顔でそう告げた娘は頭がおかしいと思う。
いったい誰がこいつを育て教育したのだと親を詰ろうとして、その役を担ったのが親でも兄でも親戚ですらない赤の他人の自分だったと
思い出した時は、頭を壁に打ちつけたくなったが。
マルチェロは動揺を隠すべく咳払いすると、戯言を言うなと努めて冷やかに言い放った。
「私が悪人ではないだと? 大事な仲間を犯罪人に仕立て投獄し、お前を軟禁しているこの私のどこが悪人でない?」
「確かにマルチェロさんはみんなを牢屋に入れましたし、私もそれについては酷いって思っています。
でも、だからってそれが悪人に直結するかっていったらしないと思うんです」
「お前は甘すぎる。どこまでお人好しなんだ」
「私が甘いのは、私に生き方を教えてくれた人が世界の素晴らしさをたくさん語ってくれたからです。
私は、そんな人が悪人だなんて認めません」
「いい加減にしろ・・・!」
「いい加減にしてほしいのはマルチェロさんの方です。・・・マルチェロさん、いつまで悪人ぶってるつもりですか?
そんなに私に嫌われたいんだったら絶対に無理です、諦めて下さい」
私がマルチェロさんのこと嫌いになるわけないじゃないですか。
そう何の躊躇いもなく話し、そっと眉間に寄せていた皺に手を伸ばす愛する教え子を見下ろす。
すまない、すまない、不甲斐ない私を、見捨てないでくれ。
やっと言えた本当の言葉に、人のような天使は当たり前ですとまた笑って答えた。
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