3.吸血鬼の認知度
王家秘伝の書物をばらばらと捲る。
リグにしか読めないその本は、他の者には何の知識も授けてはくれない。
あのさあと声をかけられ、バースは何だと腹立たしげに答えた。
できればネクロゴンド家には係わりたくないと思っているのに、この勇者は人の気も知らないでまた。
「世の中いろんな魔物がいるらしいけど、ヴァンパイアが登場するのって俺らの世界くらいらしいな」
「・・・いつから俺たちは俺たちじゃない世界の魔物事情まで把握するようになったんだよ。
その本、そんなことまで書いてあんのか!?」
「いや、書いてないけど。
ノアニールの森はエルフもヴァンパイアも、とにかく異種族の宝庫だなと思ってさ」
あいつらも根はいい奴だったのかもとぼやくリグに、バースは今度こそ眉を潜めはあと言い返した。
魔物にいいも悪いもあるわけがない。
今更何を生ぬるいことを言い出すのだ、こいつは。
魔物は狩るべき対象だとわかっているだろうに。
「リグ、あのヴァンパイアは正真正銘の魔物だ。
間違ってもアリアハンで秋頃やってる楽しい祭りに出没する連中じゃないからな。
同情したら殺られるだけだってわかるだろ」
「わかってるよ。でもさー、なーんかだるいんだよなー」
「・・・それ、ただの夏バテだろ」
「バース、ヒャダルコしてくれ」
「よーしわかったメラミだな」
バースの指先に灯った火球が、ちりりとリグのマントに飛び火した。
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