6.恋をするとお腹が空くのは



 訓練を終え調練場から出てくると、自分に向かって1人の娘がひらひらと手を振ってくる。
胸に抱いているのは差し入れの肉まんだろうか。
訓練上がりの空きっ腹には嬉しいけれども、彼女はいったいいつから待っていたのだろう。



「遊びに来てくれたの?」

「うん! 肉まんと桃まん作ったから一緒に食べよ!」

「ありがとう。少し待ってて」



 手を洗い、風通しの良い中庭で手作りの肉まんを頬張る。
美味しいねと言って顔を見合わせ、笑顔で笑い合う。
星彩にとってはかけがえのない友人だった。
武芸の話はできないが、気の合う友人としては彼女以上の存在はなかった。
知り合ってそれなりの年月も経ったが、彼女と我が師匠の仲はどうなっているのだろう。
戦場での勇猛果敢さからは想像できないほど、師である趙雲の日常は穏やかそのものだ。
優しいから馬超殿や馬岱殿につけ込まれるのですと度々進言はしているが、改善の見込みは薄そうだった。



「趙雲殿とは仲良くしてるの?」

「うん! こないだも一緒にお話したのよ。・・・途中で岱兄上来たけど」

「・・・今のままで満足してるの・・・?」

「うーん・・・・・・。・・・まあ、あの方にはあの方の考えがあるだろうから今は幸せかな」

「・・・そう。だったらいいんだけど」




 今の幸せは明日には繋がらないとは言えない。
もう少ししっかりして下さい趙雲殿。
星彩はこう見えて気の長い友人の横顔を見つめ、3個目の肉まんに齧りついた。




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