8.ギリギリの飢餓感
攻防戦が終わらない。
スペインは目の前でぷいと横をむいたきりこちらを見ようともしない女性に、
本日何度目かもわからない『もうええ?』発言をした。
間を置かず返ってくる駄目ですという言葉も、今日だけでもう何度聞いたか定かでない。
「来るたび来るたびムードも何もなしに人を押し倒してばっか・・・。私、スペインの欲望の受け皿じゃないんだけど」
「せやかて、可愛いもん、美味しいもんに手を出すのは男の本能やで?」
「そんな本能知りません!」
そんなに口寂しいならこれでも突っ込んでなさいと、熟れきったトマトをぎゅうぎゅう口に押し込まれる。
いくらトマト好きでも、さすがにこれはきつい。
トマトで窒息死などシャレにならない。
それに今は、トマトよりも恋人の血を啜りたい気分である。
「なあ・・・・・・、噛み付いてもええ?」
「は!? 私、肉食獣と付き合ってるつもりないんだけど!」
「いやでも、野菜の神さんの血やったら野菜ジュース的な味がするもんかなと・・・」
「しません! もう帰る!」
攻防戦終了。
がたりと立ち上がった恋人の腕を咄嗟に掴み、抱き締めたと同時に首筋に歯を立てる。
痛い痛い痛い痛いと喚く彼女の身体から滴る赤い液体は、鉄の味しかしなかった。
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