9.いただきますの交換条件
弁当箱に入っている卵焼きを、よそ見している隙に奪われる。
わあと叫んでいる間にも卵焼きは略奪人の口へと投入される。
卵焼き返せと言われても素知らぬ顔で飲み込んだ犯人を、はむうと睨みつけた。
「私の卵焼きなんで勝手に食べるの!」
「なんだ、の卵焼きか。おばさんのかと思った」
「食べて文句言うわけ!?」
「文句は言っていない。少し残念に思っただけだ」
だからそれを文句というのだ。
の卵焼きは少し甘すぎるとダメ出しされるが、そんなこと知ったことではない。
なぜ家族でもなんでもないただの幼なじみの味覚に合わせなければならないのだ。
は豪炎寺の弁当箱を覗き込むと、アスパラガスのソテーに狙いを定めた。
「それ寄越せ」
「断る」
「私の勝手に食べたじゃん! 等価交換は基本でしょ!」
「・・・・・・ほら」
「ん」
箸で持ち上げられ突き出されたアスパラガスを口に含む。
なかなか美味しい味つけに、渋々美味しいとだけ呟く。
これだけ料理ができるなら人のおかずを奪ったり料理を作らせる必要はないだろうに、本当に人遣いの荒い男である。
「・・・・・・なあ、あれって素でやってんのか? あーんって」
「みたいだなー。半田もやってほしいか、あーん」
「なんで土門にやられなきゃいけないんだよ! ったくおいそこの2人! いちいち紛らわしいことするな!」
「「何が?」」
半田を顧みて弁当箱から目を離した隙を見計らい、と豪炎寺は再び同時に互いの弁当箱のおかずを強襲した。
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