3.黙って背中だけ貸して
人里離れた山奥の古びた神社の社殿の扉が乱暴に開けられる。
食べ物があると思って襲ってきた夜盗か、腹を空かせた子供か、それともまさか―――。
蝋燭の頼りない光でも、外は月も出ているだろうし誰だかくらいはわかるはず。
座ったまま振り向こうとしたが、その動作は夜陰に紛れ屋内に侵入していた者に阻まれた。
背中から抱きすくめられ、胸の前で手が組まれている。
あぁ、この白い軍服とこびりついた血の臭いは。
「日本、さん・・・?」
「・・・・・・」
「・・・どうしたんですか、こんな夜更けに・・・・・・。遠路はるばる夜這いですか・・・?」
「・・・そう、したい気分です・・・・・・」
「駄目です、ここ神社です」
背中越しに感じる日本さんの体は熱かった。
・・・まだ、怪我をしたんだろう。
今度はどこをやられたんだろうか。
そんなにボロボロになるまで戦わないで、戦わせないでと大きな声で叫べない今の身の上が悔しくてたまらない。
私はこんなこと望んでないのに、勝手に人の気持ち見透かしたようなことしないで。
「今日はここにお泊りですか・・・?」
「・・・今日だけ、ずっとこうしていていいですか・・・?」
「その体勢じゃ寝れませんよ」
「寝て、目覚めた時にあなたがいないかもしれないと思ったら怖くて眠れません」
今日だけだなんて嘘。この間も、その前もこうやってこっそりやって来て同じことしてた。
それに、怖いと思ってるのは私も同じ。
きっと彼は、夜が明けた時にはもうここからいなくなってるのだろう。
それきり帰ってこないんじゃないかと思って泣き続けた夜もあった。
いや、そんな夜の方が最近は多いかもしれない。
日本さんが来るのが夜で良かった、光ある時間だと、目が腫れてることがばれちゃうから。
「ねぇ、日本さん・・・?」
「何ですか・・・?」
「・・・なんでもないです。あんまり体重かけないで下さいね」
今度、私にも背中を貸して。そして思いっきり抱き締めさせて。
いつの日か、太陽の下で笑顔でその願いが叶いますように。
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