お題・4
04.救いようのない片思い



 賢者以外が人以下なのではない。
おそらく、己の力を過信し我が物顔でアレフガルドを歩く賢者が人ではない異形の生き物なのだ。
ミモスは館の隅に捨てられていた娘を抱き起こすと、冷めた体をぎゅうと抱き締めた。
人は人を殺せない。
人を殺せるのは魔物だ。
だから、人を殺そうとしたあれは人ではなくてもはや魔物だ。
ミモスは魔力を集中させると、ザオリクと小さく唱えた。
大丈夫だ、彼女の魂はまだ天へ召されていない。
もしも仮に天へ昇る途中だとしたら、この身を竜に変えてでも彼女を連れ戻す。
そうでもしなければ、彼女以外には認めてもらっていない自分は生きていく価値がない。
彼女にだけは必要とされていたい、大切にしたい、愛されていたい。
ミモスはアリシアの体を抱いたまま、何度も彼女の名を呼んだ。
ミモスにとってアリシアだけがルビスよりも確かに光り輝く存在だった。




「ん・・・」

「アリシア・・・?」

「・・・あら、・・・おはようミモス・・・?」

「おはようなんて暢気に言っている場合か! 君は、君は・・・・・・!」

「あら、でも私は今目を覚ましたんだからおはようで間違ってはいないわ。
 ・・・綺麗ね、あなたの瞳ってまるで空の色みたい」




 天国にいるかと思ってびっくりしちゃったわ。
そうおどけてみせ微笑むアリシアに、ミモスはぎゅうと抱き締めたまま馬鹿者がと呟いた。





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