お題・8
08.紫の朱を奪う



 思わず拍子抜けしたくらいには、穏やかな日々に恵まれている。
あの日魔物に襲われていた女性を妻としてから、ミモスは少しずつではあったが人並みの幸せというものを味わいつつあった。
適応能力の高いアリシアは、一族の面倒なしきたりや暮らしに音を上げることもなく、むしろ嬉々として参加しているように見える。
リムルダールにいたままではまずできなかったことだもんと楽しげに話す様子からは嘘だとは思えず、
自らの立場すら危ういこちらとしては、彼女の態度は非常に頼もしかった。
だからなのかもしれない。
彼女に安心しきって頼り切って、子どもを授かってもなお父親らしいことをせず、放っておいたのは。
ルビスが授けてくれた我が子2人は確かに紛うことなき我が子なのだが、まるで我が子ではないような力の持ち主だった。
父と慕う幼子に気後れしていたのかもしれない。




「とうさま」「ちちうえ」

「・・・・・・」

「とうさま、ぼくたちにまほうをおしえてください」

「・・・できない」

「どうしてですか? あ、そうだ、見てくださいちちうえ、今日はあたらしいともだちができたのです」




 とても利発で愛らしい、天使のような息子たちだ。
自分とよく似た瞳は自分よりも遥かにきらきらと輝いていて、まっすぐに見つめられると目を背けたくなる。
私はお前たちが苦手なのかもしれない。
思わずそう呟きはっと我に返ったミモスは、今にも泣きそうな子供たちの表情に慌てて笑みを取り繕った。



「すまない。お前たちは私には過ぎた、とても素晴らしい息子たちだからな・・・」

「とうさまは、ぼくたちがきらいですか?」

「まさか。愛しているとも、私の可愛い子どもたち」



 本当にと何度もしつこく尋ねてくるのは弟のバースだ。
当たり前だ、子を愛さない親などいったいどこにいるのだ。
ミモスは母とルビスの塔へ向かうと告げ去って行った息子たちを見送ると、いつになく暗く澱んだ空を仰いだ。





元に戻る