02.ただのキス



 ぎゅうと後ろから勢い良く抱きつかれる、
決して軽くはない重みに耐えかね叱りつけるべく首だけ後ろへ巡らせると、頬に柔らかな唇が触れる。
びっくりしたーと抱きついたまま尋ねてくるスキンシップ大好きな幼なじみを引き剥がすと、
半田は扇風機の風量を『強』に設定し直した。
ただでさえくそ暑いというのにぴたりと抱きついてきて、今夏は密着禁止令でも発令すべきかもしれない。




「はいはい、びっくりした」

「ほんとにー? ねえねえ真一」

「そうやって誰彼構わずベタベタしてるんだろ、どうせ」

「してない! ねえねえ真一、私リップ変えたんだよ、どうだった?」

「別になんとも」

「えーっ! むーん、やっぱほっぺだからわかんなかったのかな。じゃあ口にする?」

「・・・あのさ」




 半田はに向き直ると、ちょんとの額をつついた。
そこは普通お返しにほっぺだよとせがむ言葉は聞き流し、遊びに来てからちっとも進んでいない宿題を唇の代わりに
押しつける。
は教科書を床に落とすと、むうと眉をしかめた。




「しかめ面したって駄目なもんは駄目だって」

「ほっぺにも駄目?」

「ああ駄目だ。もっと自分を大切にしろ、

「えー、私真一になら何されたっていいのにー。カモン!」

「そういうことも言わない」




 頑固で融通利かないとこあるけど、でもそれもきっと私を思ってのことなんだろうなあ。
は半田の優しくて柔らかなベールに守られていることに安堵し、押し倒す勢いで再び半田に抱きついた。




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