07.笑って私を交わす技


　にこりと笑みを浮かべ、こんにちはと柔らかな声音で挨拶を寄越す。
興味深いと思われる戦や旅先での話を聞かせれば、そうなのですかとじっくりと真面目に耳を傾けてくれる。
そしていつも彼女はこう言うのだ、『素晴らしい経験をなさったのですね』と。
褒められて悪い気はしない。
賞賛されるのはいつだって気分がいい。
けれどもそれだけでは物足りないと思ってしまうのだから、人という生き物はつくづく欲にまみれている。





「ということで、今日はとびきりこの私を叱ることを許してやろう」

「まあ・・・。何かあったのですか、鐘会殿」

「何も？
　ただ、あまりにも凡人とかけ離れた英才教育を受けた私にも、たまには凡人の意見は聞くべきかという思いがあっただけだ」

「左様でございますか。鐘会殿は本当に探求熱心なお方なのですね」

「ですから、私を褒めるのではなく・・・！」

「ですが、あまり根を詰められるとお体に障りましょう。時には何も考えずゆるりと休息なさったらよろしいかと」





　適度な運動と適度な休息、それが一番だと公績殿も仰っておいででした。
娘の口からほんのりと出された自分ではない男の名前に、鐘会は今日も奴を追い越すべく休息を返上すると決意した。





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