神の行方
にとって達と始めた旅は
彼女の以前からの世界を見てみたい、という希望と見事に一致していた。
現に今彼らは国境付近を歩いている。
にとっても、達にとってもこれから先の土地は初めて訪れるのである。
期待と不安で心は満ち溢れていた。
「ねぇ、そろそろ休みましょうよ。日も暮れてきたし、
これ以上歩いても危ないだけだと思うわ。」
先頭を歩いていたゼシカが後方の達に声をかけた。
確かに日は沈もうとしている。
しかも前方にはうっすらと教会の影が。
「だいたい、この辺りにある教会と言えば、
善意で一夜の寝床を貸してくれる親切な所だな。
今日はそこで休もうぜ。」
まだこの辺りの事については詳しそうなククールもそれに同意する。
他の仲間達に異論は無い。
幸い教会の神父とシスターも快く彼らの願いを聞き届けてくれた。
こうして彼らは眠りに着く事になった。
夜中、誰かがベッドを抜け出す音がした。
(ん・・・?)
はぼんやりとしたまま体を起こした。
静かにドアが閉まる音。
うっすらと見えたのはマント。
「ククール・・・?」
はそろりと寝床を抜け出して外に出て行った。
外は星々がきらきらと輝いていた。
「?どうしたんだ?
眠れないのか?それとも起こしちゃったかな。」
「ううん、なんとなく夜の風に当たってみたくて。
私、今までは寝る前にはいつも外を見てたの。
空が好きだから。」
『ほぉ。なかなかロマンのある娘さんじゃな。』
「え?」
「?どうかしたのか?
いきなり・・・。」
過去にもあったこのパターン。
いきなり人の気配が無いのに、声だけが聞こえるというなんとも不思議な。
そして彼女がそうやって見てきた者はみな死んだ、あるいは死んでいた。
恐る恐る声のした方を見てみる。
やはりそうだった。
顔中に満面の笑顔を浮かべ、にこにことこちらを見つめている、つい数日前に見たあの人。
「(院長・・・。)あ、ごめんねククール、
私やっぱり眠くなっちゃった。先に失礼しちゃうね。」
「あ、ああ。」
そう言うとは教会の方へと戻っていった。
・・・と見せかけてこっそりと教会の後ろへ隠れる。
『ほほぉ、なかなか機転の利く娘さんじゃな。
わしは感心したぞ?』
「褒めていただいて嬉しいです、ええっと・・・、オディロ院長。
あのっ!どうして私の前に現れたんですかっ?
私実は、いや、もしかしたら過去に何度か同じような目に・・・っ!」
なんとなくそうかもしれないと思っていた予想が見事に現実となって、
は現れたばかりの院長に質問をぶつけまくった。
院長はまた笑って、
『少し落ち着いたらどうじゃな?
そうか・・・、娘さんは他にもわしのような者を見たのか。』
「はい、老魔法使いのライラスさんと、若いサーベルトさんです。
2人とも院長と同じような現れ方をしていました。」
『そうじゃろう、そうじゃろう。2人ともわしと同じ輩に殺されておるからの。』
やっぱり・・・、とはため息をついた。
覚悟はしていたが、いざそう言われてみるとなんとも悲しさが倍増してしまう。
さらに、道中ゼシカから兄であるサーベルトの話などを聞いていても、
向こうは自分が知らないという事を前提にして丁寧に話してくれるものだから、
尚更切なくなってしまう。
『そうじゃな・・・、娘さんにだけわしらの姿が見えるのは・・・。』
「見えるのは?」
この焦らし上手な院長は彼女が諦めようとする直前まで答えを言わなかった。
『神の、思し召しじゃな。』
「神様、の?」
『その通り。天におわす神が娘さんにわしらの姿が見えて欲しい、
とお思いになったのであろう。それがなぜだかは知らぬ。
だがこのことは、きっと娘さんにとっても何か意味するところがあるんじゃないのかな?
わしが生前聞いた話じゃが、娘さんは以前マルチェロから呪文を習っていたというな。』
「なんでご存知なんですか!?」
『わしに隠しごとをすることなど、あの者らにはまだまだ50年ほど早いからの。
修道院の地獄耳とまで言われたわしが知らぬ話は無い。
・・・とまぁ、最後のはでたらめじゃがの。』
いたって話しにくい院長だった。
つかみどころが無いというかなんと言うか、
彼と話せばますます謎が深まるような気がした。
とまぁとにかく、と院長は付け加えた。
『神が我らをいずこへ導こうとなさるのかは誰にも分からぬ事じゃ。
しかし、たとえどのような道を選んでもそれもまた娘さんの人生。
この世界は今変わろうとしておる。
長い眠りから覚めて何かのように、な。
そして娘さんやあの旅の者達もその変化に抗おうとしておるのかも知れぬ。
決して流されるでないぞ。道は、己が決めるのじゃ。』
そう言うと院長は大きく息を吐いた。
「もう、行かれるのですか?」
『これ以上娘さんと話していれば、娘さんは風邪を引くじゃろう?
それにわしももう疲れた。
後は若い者らに任せてみようと思う。
達者でな、ええと・・・、そうさんや。』
あの2人と同じ消え方をした。
いつの間にか、はっと目が覚めるような気になった時には
すでにその場には誰もいないという。
いつの間にかククールが隣に来ていた。
「何を考えてそんな所に1人でうずくまってんだ?
風邪引くぞ、ほら。」
そう言うとククールは自分の羽織っていたマントを
そっとに着せてくれた。
「ありがとう、ククール。ううん、なんでもないの。
それよりもククールもまだ外にいたの?
風邪引いちゃうよ?」
「俺のことはいいの。こう見えても案外体は丈夫だから。
それよりもほら、さっさと中に入るぞ。」
夜が、明けようとしていた。
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