What Do You Want?



 トロデーン城のとある一室。王国第一王女ミーティアと、近衛隊長の恋人はゆったりと午後のティータイムを楽しんでいた。
彼女達2人とお付きの女官1人しかいない部屋での会話は、かなり赤裸々な事まで話せる。
年齢の近い若い女性同士と来ればなおさらだ。







は本当にいつも仲良しですね。うらやましいです。」



「そんなことないですよ? 怒らせたことも怒ったことも、喧嘩して家飛び出したこともありますし。」





喧嘩して云々の話は、『恋人達のお手紙』を参照してほしい。
あの事件があって以来、2人はさらにいちゃいちゃするようになっている。
もちろんそれは、周囲の人々の目からも明らかなことだ。
ミーティアはティーカップをことりとテーブルに置くと、悩ましげにため息をついて言った。









「ミーティアも素敵な男性とそのような関係になりたいですわ・・・。」


「「は?」」





と女官の間の抜けた声が重なった。
ミーティアはの方をちらりと見ると、やはり残念そうに言う。





「でもミーティアにとっては幼い時からのお友達で、お付き合いしようだなんて思いませんし、
 サザンビークのあの豚王子なんて人外だし・・・。
 馬の姿の方が素敵なお馬さんを見つけられたかもしれませんわ。そう思いません、。」






 そう思いませんと聞かれても答えようのない
本来の婚約者だったサザンビークの豚王子、もといチャゴスなどは人外と言われる有り様である。
しかし馬の姿の方がいい出会いがあったかもなど、まだまだ若くて美人な姫の口から出る言葉にはふさわしくない。





「ミーティアは今すごく男性とお付き合いしたいんです。
 そこもこれも、言ってるからですわ。」


「す、すみません・・・。」







猛烈に彼氏を欲しがっているミーティアに恨めしそうな目で見つめられ、なんとなく謝ってしまう
いかに金持ちの王族と言えど、愛する男などすぐに現れようはずがない。
相手に熱に浮かされたように理想の男性像を語るミーティアの瞳は、キラキラと輝いていた。





























 その日がミーティアから解放されたのは、夜も更けて晩ごはんまでご馳走になってしまった後のことだった。
ミーティアの乙女チックな夢を延々と聞かされたは、さすがにぐったりとした様子で家のドアを開けた。
中からはいい匂いがする。台所の奥からのおかえりーと言う声が聞こえてきた。
彼の声を聞き、まずいと思って急いで台所へと直行する







「おかえり。遅かったね、姫様とずっとおしゃべりしてたんだって?」





鍋をぐるぐるかき回しながらに話しかける。
は申し訳なさいっぱいで、彼の手からおたまを取り上げると素直に謝る。







「疲れてるのにご飯まで作らせちゃってごめんね。お姫様の欲しいものの話をしてたの。」





おいしそうな匂いのするスープを1人前皿によそうと、はテーブルの上をちゃちゃっと片付けて夕食の支度をする。
1人分しか用意をしないのを見ては首を傾げるが、ご飯を頂いてきてしまったと言うの言葉を聞くと、ちょっぴり寂しそうな顔をして椅子に腰掛けた。







 「姫様に欲しいものってあるんだ。何?」



「えっとねー・・・・、男?」





「・・・・・・・・・。詳しく話してくれないかな。」









笑顔のまま硬直したに向かって、は今日あったことを話し出した。
始めは男が欲しいと聞いて男狂いでもしたのかと不安になっただったが、詳しく聞くと今度は苦笑した。







「姫様大胆なこと言うね。びっくりしたでしょ、僕達のせいみたく言われて。」



「うん。その後は欲しいものありますかって聞かれたけど、私は何もないって言ったの。
 だって私は今がすごく幸せだもん。」







そう言うとはほんとに幸せそうににこっと笑った。
全てが満ち足りた生活というわけではないけれど、愛する人と一緒にいて一緒に笑う。
これ以上の望みなどない。それはまた、も同じ思いである。
本音を言ってしまえば、もう1つ、彼には欲しいものがあるのだが。








「僕は欲しいものがあるんだよね。」



「へぇ~、何が欲しいの?」







 の欲しいものに興味をそそられる
何が欲しいんだろう。今度プレゼントしちゃおっかな。
新しい剣かな、でも竜神王さんからいただいて錬金した奴以上の強さを誇るのはないって言うけど。
は様々な想像をしながら、が答えを言うのを待っていた。









「僕はね、子どもが欲しいんだ。」


「・・・の、子ども?」



「うん。僕との子ども。は欲しくないの?」








 彼の言っている意味がわかった途端にぼっと顔を紅くする
欲しくないわけがないが、それをすぐさま肯定することはさすがに躊躇われ、しどろもどろになっての顔から目をそらす。
はそんな初々しいを見て可愛いなぁと思い、ちょっとした悪戯心も生じて、俯いている彼女の真っ赤な顔を覗き込んだ。






は子ども嫌い?」





ものすごい勢いで首を横に振る
日頃から城内や町の子ども達と遊んでいる彼女の姿を見ているは、わかっている上でわざと尋ねたのだ。






「じゃあ他の家の子はいいけど、僕ととの間に生まれた子どもは駄目なの?
 それとも僕のこと、嫌い?」




「ち、違うっ!! もう・・・、だって・・・・・・、恥ずか、し・・・・・・。」







思わず顔を上げたはなにやら楽しげにしているの真っ黒な瞳をばちりと目が合い、ますます顔を紅くする。
服をぎゅっと掴み、恥ずかしさからぷるぷると震えているの肩をそっと抱くと、は彼女の耳元で甘く囁きかけた。








「僕の欲しいもの、も欲しいよね。」



「う・・・・・・・・。明日、ゼシカと会う約束が・・・・。」



「ゼシカなら笑って許してくれるよ。理由が理由だし。」







 翌日、城へとやって来たゼシカは疲れた表情のを前に大笑いして、彼女を慰めてあげたそうだ。



あとがき

激甘でお願いしますというリクエスト、ありがとうございました。
かなり高難易度のお題に、書いていたこっちが恥ずかしくなった所存です。




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