flimsy excuse(見えすいた言い訳)
何か、恨みを買うような事でもしただろうか。
は近頃とんと目を合わせてくれない愛しの彼女を見やり、小さくため息をついた。
いつもは見せてくれる可愛らしい笑顔も、最近はあまりこちらに向けてはしてくれない。
恨みを通り越して嫌われてしまったのだろうか。
心当たりは全くないものの、は絶望感に打ちのめされた。
避けられている理由がわからない分、不安も大きくなるのだ。
「ということでククール、八つ当たりさせて」
「そういうとこが嫌われたんじゃね?」
マジックバリアを唱え盾をがっしりと構えたククールが、盾越しに非難の声を上げる。
どうせまた性質の悪い冗談だろうが、心臓を縮み上がらせるには充分な効果を発揮する。
冗談だとわかっていても肝を冷やす己は果たしてチキン野郎なのか。
認めたくはないが、認めざるを得ない肝の冷え方だった。
「僕、ほんとに参ってるんだよ。の笑顔見ないと戦う気も起きない」
「とか言ってさっきからジゴスパークしまくってるのはどこの誰だ」
「それは、の笑顔が見られないことに対してストレス溜まってるからだよ」
は突き立てたままの槍にもたれかかると、少し離れた場所で今日も元気にゼシカとイオナズンを発動しているを眺めた。
ゼシカにはあんなに可愛く笑って見せてるのに、どうして僕にはそれを見せてくれない。
差別だ、贔屓だ、ゼシカずるい。
そもそも、イオナズンを選択しているあたりからゼシカ贔屓なのだ。
ベギラゴンならば愛の競演が果たせるというのに、そんなに全体攻撃が好きなのか。
そりゃ僕だって手っ取り早くジゴスパークで一掃してるけどさ。
の熱烈な視線に気付いたのか、雑魚を片付け終わったがくるりとの方を向いた。
じっと眺めていたかと思うと、ふいと視線をずらされる。
そう、その態度だ。
そのそっけなさが僕のガラスのハートを傷つけてる!
心臓はガラス造りでも行動力と肝の太さはオリハルコン並みのは、ぷちりと軽快な音を立てて切れた頭の導きに従い、の元に歩み寄った。
ぎこちない笑みを浮かべ応対するをびしりと指さす。
ぎょっとしている彼女を前に、は高らかに宣言した。
「、僕と勝負だ。僕が勝ったら君が僕を避けてる理由を洗いざらい話してよね!」
「決闘なんてしなくても話すよ!?」
「わかった!?」
「・・・うん・・・?」
2人の不毛な戦いが幕を開けた。
島が壊れる。
観戦者にして審判でもあるヤンガスたちは、たちの肉体よりも先に試合会場の耐久度を案じていた。
決闘などという馬鹿馬鹿しい事はやめろと再三諌めたものの、すっかりやる気になった2人は聞く耳を持ってくれない。
アスカンタならばすぐにでも滅ぼせると当代のトロデーン国王その人から太鼓判を押されている者たちが本気で決闘などしてしまえば、本当に国が滅びかねない。
村にも街にも城にも遠く、できれば人も住んでいない場所。
ヤンガスたちが選んだのは、地図にも載っていない絶海の孤島だった。
到着直後こそ穏やかな青空を見せていた島の上空は、今では紫の雷雲や雷撃、竜巻や爆発などのため、全体的にどす黒くなっている。
これではトロデーン城上空とあまり変わらないではないか。
ぼそりと呟かれたトロデ王の本音に、ヤンガスたちも一様に頷いた。
「いい加減にしてよ、ギガブレイク・・・!」
「こそ変なこと言わないで、メラゾーマ!」
ひらりひらりと互いの攻撃を躱していく戦いに終わりは見えない。
どちらかの魔力が尽きるまで続くのだろうか。
それはいつになるのだろう、明日か明後日かもっと先か。
2人の魔力よりも先に、島が沈没してしまう方が早い気がする。
「ゼシカ、が兄貴を避けてる理由が何か知ってやすか」
「が風呂上がりに水と間違えてエルフの飲み薬飲んだのよ。がこっそり自分用に錬金してたそれをね」
「そりゃが悪いな」
「でしょ」
魔力を使う者にとってエルフの飲み薬は、確かに貴重なものだ。
それを錬金するために必要な材料も手に入れるのが非常に難しい。
そのため、普段は苦いことでおなじみの魔法の聖水を複数本一気飲みすることが普通だった。
だからククールもゼシカも、が怒る理由はよくわかった。
わかるのだが、それを口に出してを糾弾しないのはなぜだろう。
のことだ、の文句とあらばすぐに謝罪するに決まっている。
代わりのエルフの飲み薬だって、1ダースほど用意するかもしれない。
口も利きたくないほどに怒っているのだろうか。
謎は深まるばかりだ。
「隙あり!」
「きゃ・・・っ!」
凍らせた地面に足を滑らせたには飛びかかった。
顔のすぐ横に剣を突き立てればようやく大人しくなる。
負けて悔しいのか未だに嫌っているのか、そっぽを向いたままのの顔をは強引に自分に向かせた。
「さ、僕を避けてる理由を教えて」
「・・・エルフの飲み薬」
「は?」
「が私の飲みかけのエルフの飲み薬飲んだの! 悔しいし恥ずかしいし・・・。私の返して!」
返してと言われても困る。
水にしてはやけに美味しいと思っていたが、あれはエルフの飲み薬だったのか。
滅多に飲まない代物だから味がわからなかった。
しかもそれがの飲みかけだったとは。
・・・一気飲みなどせずにもっと味わって飲むべきだったかもしれない。
惜しいことをしてしまった。
「ちょっとずつ飲もうと思ってたら一気飲みしちゃうんだもん・・・」
「ごめんね、今度からちゃんと味わって飲むよ。よく考えなくてもの飲みかけなんて、滅多にないチャンスだった」
「そういう問題じゃないもん! の馬鹿、もう知らない!」
の頭上が急に熱く、そして赤くなった。
まずい、本気で怒らせた。
絶対不可避の距離から放たれたメラゾーマに、はあっけなく呑み込まれた。
あとがき
エルフの飲み薬は錬金だと世界樹の雫と魔法の聖水でできるんですが、世界樹の雫を作るためには葉っぱが必要なのです。
月華では、エルフの飲み薬は蜂蜜のような美味しいもので、魔法の聖水はめちゃくちゃ苦い液体だということにしています。
地図に載っていない島を見つけて上陸するのは、どのドラクエシリーズでもときめいた記憶があります。
どこらへんが『見え透いた言い訳』って? 避ける理由と、戦う理由あたりだと思います。(企画さんに提出した作品なんですが、お題を間違えて認識してました)