甲板と夜







 「じゃあ、今日の夜の見張り番はククールとでいい?」





 の声が船室の中で響く。
そう、彼らは先日イシュマウリからこの古代戦を復活させてもらっていたのだ。
永い間砂漠の中で眠っていたにも関わらず、快調に海の上を走っている姿は、他のどんな最新の船よりも輝いて見えた。
が、ここはあくまでも海の上。
今まで陸地で過ごしてきたのとは訳が違うのは当然で、海の魔物は強く、かなりの苦戦を強いられた。
そんな中で見張りも立てずに夜を過ごすのはあまりに危険すぎる、
ということで急遽見張り当番制が敷かれたのだった。







「準備完了。
 よし、今日は遅くまで語ろうな」


「そうだね。ずっと話しながら見張りしてたら、眠気もどこかに行っちゃうだろうしね」





そう話しているのは、今日の見張りに決定したククールとだった。
実はたちは、この2人の組み合わせに並々ならぬ危機感を抱いていた。
2人が弱すぎて見張りにならないなどというようなことではない。
彼らが思っているのは、ククールに対する危機感だった。
こう思ってしまうのも、ククールの普段の行動から見れば至極自然な発想だった。
だが、今日ばかりは勝手が違う。
確かにいつもククールは何か隙があればいつでも、どんな時でもを口説いているが、それは周りにいるゼシカにもれなく火の玉などを食らっているので、さしたる問題はない。
しかし今日はその彼の行動を邪魔するものは何もないのだ。
のおっとりとしていて、なかなか人を拒めないという性格から考えれば、夜の見張りでククールと2人ということは、猫の前にかつお節を置いておくようなことであった。
とにかく、の身の安全だけは守らなければならない。
たち3人は額を寄せ合って対策を練っていた。
そして彼らが決めた、ククール撃退法とは―――。













 その夜、はククールと一緒に夜の海を眺めていた。
傍から見れば、この2人が見張りの任務を仰せつかっているとは考えられなかった。
それほどまでに彼らの雰囲気は穏やかだったのである。
しかし、ククールの心は激しく葛藤していた。





と2人きり・・・。この時を逃してどうする、俺!
 今はあの過保護すぎるもそら恐ろしいゼシカもいないんだ。ここでともっと仲良くなっておけば・・・)




 そんな彼の心境も露知らず、はのほほんと海を眺めながら歌を歌っていた。
ついにククールは決心した。





っ・・・!!」


「なに、ククー・・・、きゃ!?」





 いきなり彼はに抱きついてきた。
いや、この場合押し倒したと言った方が合っているのかもしれない。
彼の不意打ちには混乱し、急いで彼の腕から逃れようとするが、次の瞬間彼女が目にしたのはククールの背後に迫る魔物の姿だった。
戦わなくてはならない。
しかしこの状態で呪文を放つのはあまりに危険すぎる。
敵はしびれくらげが3匹のようだから、決して強くはない。
だが、万が一麻痺にでも当たってしまったら、後に待つのは悲惨な結末だけである。
は大声で叫んだ。






「ククール!頭下げて!! ・・・紅蓮の炎よ、かの悪しき者たちを焼き払え! ベギラマ!」





 が高らかに叫んだ時、ククールは初め不思議そうな顔をした。
しかし、次に詠唱した彼女の声にはっと我に返りすぐさま弓を手に取った。
幸い、彼女の放った呪文で敵はかなりのダメージを受けており、怪我をすることもなく魔物たちを退けることができた。
はずだったのだが。









 「ふぅ・・・。ごめんな、、なかなか気付かなくて。・・・おい、
 どうしたんだ。もしかしてさっき掠ったやつで麻痺したのか?」





 彼女がぎこちない動作で首を縦に振るあたり、そうなのだろう。
ククールは当然の成り行きからキアリクを唱えようとした。
が、ここで彼は思いとどまった。




(今ははたいした抵抗もできないだろ・・・。ってことはもしかしてこれは・・・)





 ククールが危険な決心を固め、彼女に呪文をかけることもなく、再び近づいてくる。
は身の危険を察し、逃げようとするが、麻痺しているため身体が動かない。




(ククール・・・っ! だめ、来ちゃだめ!!)



 の唇に彼のそれが触れようとした時、ククールの動きが止まった。
彼女から離れ、ゆっくりと自分の手を見つめる。
そこには指輪・・・、通常『理性のリング』と呼ばれるものが嵌められていて。
ククールはまさかと思った。
これはまさか、たちが昼間額を寄せ合ってなにやら呟いていた錬金レシピの賜物なのか。
いや、そうに違いない。
そうでもなければあの爽やかに腹黒かったり、爽やかにに近づいてくるククールを攻撃するがあんな笑顔で、指輪をプレゼントしてくれるわけがないのだ。
彼らは今日の夜、がククールと2人きりで見張りをすることに危機感を抱き、あらかじめ手を打っておいたのだろう。
どこまでも用意周到である。そして全く信用されていない。
道理で彼がにキスをしようとした時に体が止まったわけなのだ。
全てはたちの思惑のうちだったのだ。








 ククールが1人で考えているうちに、いつの間にかが動いていた。





「ク、ククールひどい・・・。どうして麻痺解いてくれなかったの。私、が来るまでずっと固まってたんだよっ!?」


「ククール、恋愛感情を抱くのも別に止めはしないけどさ、せめて、の麻痺を解いてあげたらいいのにねぇ・・・?」





 場違いなほどに爽やかな声と共に現れたのは、ククールが今もっとも会いたくないと思っているその人だった。
彼の口調こそは別段普段と変わりがないが、背後からはどす黒いオーラが立ち込めている。
ククールは無意識のうちに後退りをした。





「や、、こ、これは事故で・・・。なぁ、?」


「事故なんかじゃないもん!!」




 聞く耳なし。ククールの命運も尽きたようだった。
満天の星空の下で、ククールの断末魔の叫び声が聞こえた。









 おまけ





「ねぇ。ククール、あれから全然外に出てきてないけど大丈夫なの? お見舞いに行った方がいいよね?」


「あぁ、やめた方がいいよ。ククールさ、今に会ったら、またこの間みたいな事するかもしれないよ?」






 あんな事をされたにもかかわらず、未だにククールのことを心配しているは、にククールの近況を尋ねてはお見舞いに行きたいと駄々をこねていた。
そんな彼女を見て、




(君がそんなに可愛いから、ククールにあんなことされそうになるんだよ。
 まぁ、あのしびれくらげは実は昼のうちに生け捕っておいたとは誰にも言えないけどね・・・)





などと心中で思っていたのは、さすがに誰も気付く事はなかった。









あとがき

途中で4回ぐらい書き直した作品。というか、これ書いている間に表クリアして、頭の中は次のドリームネタになっていましたから。
とりあえずククールが相手のなのですが、少し主人公が出しゃばってました。





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