終わりの始まり





 世界を覆っていた闇が取り払われ、地上には再び暖かな太陽の恵みが降り注ぐ。
今日ものどかで平和だ。
トロデーン城に散らばる瓦礫の山を片付ける手を止め、はぼんやりと空を見上げた。
廃墟となり茨で満ち満ちていた城は、呪いが解けると共に元の美しい姿を取り戻していた。
噴水の周りの花も咲き誇りだしたし、尻尾が花になっていた猫も元気に子どもと遊んでいる。
さすがに破壊された城壁などは人の手による修復を待つしかなかったが、それでも住めないことはなかった。
現にの詰めている兵士の屯所だって、ぼっこり壁に穴が開いているが、夏という季節柄なかなか涼しく快適に暮らすことができる。
冬まで直らなかったらなど、今は考えたくない。





「絶好の冒険日和ですね、


「姫様」




 手が止まってますよ、働かないんならお給金上げませんと笑顔でのたまうミーティアに、は小さく息を吐いた。
仮にも一国の姫ともあろう者が、気軽に土木作業に勤しんでいる兵に話しかけるなど言語道断だ。
もっとも、この姫君はそんじょそこらのお方とは違うので、スタンダードを求めること自体が間違いなのだが。





「うふふ、こんなことばっかりやっていては身体が鈍ってしまいますよ」


「でも他に何するんですか。この城かなりガタがきてるんですよ」


「知っています。ミーティアのお部屋も夜は隙間風が気持ち良いですよ」





 それは暗に早く修繕をしろと催促しているのか。
は隙間風などものともせず文句もぶうたれない幼なじみ兼王女を見やった。
彼女は将来どうするのだろう。
もう二度とサザンビークには行けない気がする。
不本意極まりない噂も立てられているようだし、本当にあの豚王子を絞め殺したくなる。





「うふふふふ、困りましたね。遠くの国のミーティアはのことが大好きみたいです」


「ええとっても困ります。だから、僕は早いとこほんとの好きな人を探しに行きたいんですけど」


「まぁ、お城の復旧作業をやめて?」


「王や姫には悪いと思ってます。でも、とりあえず3年分くらいの休暇を一気にください」


「・・・あてはあるんですね? さんと会う方法を見つけたんですね?」





 ミーティアの問いには重々しく頷いた。
会う方法に直結しているのかはわからない。
夢で視ただけだった。自分がまだ見ぬ未知の世界があることを。
はただの夢だと思っていなかった。妙に生々しかったのだ。
そこはおそらく、この世界とは違う空間の遥か彼方にある。
1人ではきっと辿り着けないほど遠くにだ。
しかし、は行くと決めていた。
少々仕事をサボって夢で視た場所へ行くと、確かに同じ入り口が存在していた。
あっという間に引き込まれそうになるのをなんとか耐えたものの、あれは自分を呼んでいるとしか考えられなかった。
だから、ヤンガスやククール、ゼシカに声を掛けた。
同窓会がてら、もう1回旅をしてみないかと。
強くなりすぎた彼らが暇を持て余していたのは言うまでもない。
3人が3人とも二つ返事で了承してくれた。
もっとも、彼らはその旅の目的がにあることを察したのかもしれなかったが。





「ヤンガスやククールさんたちは?」


「行くって言って、もう準備万端だと思います。みんないい奴ですから」


「そうだろうと思ってました。ミーティアを連れて行ってはくれないんですか?」


「馬鹿言わないで下さい。姫様を外に連れ出したら、僕打ち首ですよ」


「冗談です。いいですか、今からはおつかいに行ってきてください。
 必要なのは、歌が上手な天使みたいな女の子です。見つけるまで、帰ってきてはいけません」


「・・・こりゃ大変そうなおつかいだ・・・。」


「ちゃんと連れて帰ってきたら、には大きなご褒美をあげます。だから、絶対に帰って来て下さいね」






 話のわかる姫君で良かった。
しかも彼女の独断で、ほとんど無期限の任務を与えてくれた。
城の作業もまぁはかどっているし。ラプソーンを倒した勇者様の力は土木作業に費やすものではないのだ。
魔物をぶった切って未知の世界に飛び込んで、冒険の先に待つ感動を見つけるのがしかるべきおつかい像なのだ。
はすばやく支度を整えるとルーラを唱えた。
今や彼女の置き形見となってしまった復活の杖を、しっかりと背中に背負って。



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