青年の受難記





 世界には、ぱふぱふという珍妙な特技が存在するらしい。
するらしいと疑問系なのは、未だ見たことがないからだった。
ちなみにゼシカは習得しているという。
一体どんな技なのか尋ねてみたが、内緒と言われてそれきりである。
ククールもヤンガスも知らなくていいとか、お前にゃまだ早いと言われた。
その時のククールの顔がやけににやけていたのが気に喰わなかったが、それ以上聞くのはやめにした。
にしてもらえばとからかわれた瞬間に、本能的にこれ以上詮索するのは良策でないと感じたからだった。
どうせ大した技でもないのだろう、奇妙な技でも返り討ちにするだけだと思うことにした。
知らないというのは、恐ろしいものである。







































 はぼんやりとゼシカを眺めていた。
同じ女性として見ても、大変魅力のある容姿をしている。
こんな美女にセクシービームやら投げキッスをされたら、魔物でなくても見惚れて戦闘不能に陥ること必定だ。
そんな今でも充分に無敵な彼女が、最近ぱふぱふを覚えたらしい。
具体的に考えるとかなり恥ずかしいのだが、果たしてゼシカはそれを行使する時が来るのだろうか。
その時は一体、何に対してするのだろうか。
というかそんな特技、特技として存在していいものなのか。







「ゼシカ・・・、ぱふぱふっていつするの?」


「いつって、そりゃ戦闘中でしょ。」


「い、嫌じゃないの!?」



「ま、特技だし?」






 あっけらかんとぱふぱふ行使宣言をするゼシカに、は頭を抱えた。
やっぱり使ってしまうのか。
なんだか、自分だったら恥ずかしくてできない。
さすがはゼシカ、ますます憧れる。






「別にたちにするんじゃないし、そんなに気にすることないわよ。
 なんならにも教えてあげよっか。」


「い、意地悪言わないでよ! できないよ、そんなこと。」


「大丈夫よ。だってデスセイレスとかウィッチレディとかもやるのよ。
 が骨抜きにされないとも限らないし。」






 何気ないゼシカの一言は、容易にを絶望のどん底に叩き落した。
が、あのぱふぱふに、しかも魔物ごときの特技に骨抜き・・・?
確かに彼は健全なる年頃の青年だ。
そういうことに興味がないわけではないだろう。
むしろ、何もない方が不安だし。
どうしよう、エイドにぱふぱふにたいする免疫なんてこれっぽちもない。
まさかもしかして最悪、ぱふぱふの餌食になってしまうのでは・・・!?








「どどどどどうしよう! 私思い余ってにメラゾーマぶつけるかも!」



「でしょ。だから先にが唾つけときゃいいのよ。
 言い方悪いかもしれないけど、の魅力にはぐらい簡単に骨抜きになるわよ。」



「先手打つとか、にぱふぱふ慣れさせるとかじゃなくって!」



「いや、私そんな直言は言ってないけど。」







 はせわしなく船内を歩き始めた。
が骨抜きにされないようにするにはどうすればいいのか。
清いお付き合いをしていきたいので、先手を打つという策は却下だ。
自分がぱふぱふを覚えるというのも精神的に嫌だ。
となれば、ここはオーソドックスに攻めるしかない。
要注意モンスターを速攻撃破するのだ。
不審行動と見られるかもしれないが仕方ない。
それもこれも、を守るためなのだ。






「私頑張るね、ゼシカ!」


「うん・・・?」





 この純真無垢な少女がとんでもない方向に向かって暴走しないよう、しっかりとフォローすると決めたゼシカだった。












































 そんなこんなでが異様なまでに打倒ぱふぱふに燃えている時、海上にデスセイレスの群れが出現した。
あまり到来してほしくなかったような、それでも一応待ちに待った戦いである。
のテンションは戦闘開始から20ほど上がっていた。






「ここで会ったが100年目っ!!」


!? どうしたのそのやる気おかしいよ!?」







 おとなしい後方支援タイプのが乱心か。
ぎょっとしたを尻目に、デスセイレスの1体を叩きのめす。
敵に不穏な動きあらば容赦しない。
いつになく俊敏な動きで扇を振りかざした。





「ねぇゼシカ、に何が起こったの!?」


「・・・ごめんなさい。私のせいってのもほんのちょっぴりあるかもしれないわ。」


「何をやっちゃってくれたのさぁっ!?」











 は見てしまった。
の猛攻をかいくぐったデスセイレスが、なにやら妙な笑みを浮かべて自身の胸を揉んでいる光景を。
なんなんだあれは、なんて破廉恥なことをやってるんだあの魔物は。
どうしてそんなに科を作って迫って来るんだ。
駄目だ、来ないでくれ。
まさかあれが・・・・・・。







「きゃーーーーーーーーーーーっ!!」







 ぶおん、と耳元で風を切り裂く大きな音がした。
その直後、の目の前からデスセイレスが消えた。
代わりに真っ赤な顔をして扇を手にしているが現れる。
ほんの数秒間の間に何が起こったのか、さっぱりわからなかった。
は取り合えず、ご乱心モードのを落ち着かせるべく声を掛けた。
声さえ掛ければ彼女も元に戻ってくれるはず。
の目論見は乾いた音と共に砕け散った。








、その・・・・・。何をそんなに必死なのかな・・・?」


「い・・・。」

「い?」


「いやっ、の、の色情魔!!」

「しきっ・・・!?」





 ぱっちーんと乾いた音がし、の頬にキレイな手形が浮かび上がった。
一方的に色情魔呼ばわりされた上に平手打ち。
あんまりじゃないかと反論しようとしたが、時すでに遅し。
はそそくさと逃げるように船室に引き籠ってしまった。
ゼシカは哀れみを込めた瞳をに向けた。
メラゾーマと平手打ち、どちらの方が精神的なダメージが大きかったろうか。
おそらく後者だろう。
彼女はニヤニヤと笑って傍観者を決め込んでいるククールと、真っ青な顔をして突っ立っているヤンガスに目配せした。
そして自身はの後を追って、船室へと引っ込んだ。








「・・・ねぇ、僕は何を見た?」


「いやぁ、見事に誤解されたな青年よ。」


「からかわないで事実を言ってククール。僕、見惚れてないよ、びっくりしただけだよ。」


「でも凝視してたように見えたぞ。ありゃだって平手打ちしたくなるよな。
 彼氏が他の女、しかも魔物のぱふぱふに釘付けじゃ。」







 は思わず剣を床に落とした。
そうか、やっぱりあれはぱふぱふだったのか。
未知の世界を垣間見た気がした。
経験不足だから仕方ないとかいっているヤンガスの言葉も、慰めにもならない。
あれがぱふぱふだったから、は叫んで乱心して、平手打ちをしたのか。
・・・もしかしなくても、それってものすごくやばいんじゃないか。
魔物への浮気の挙げ句に破局、そんな結末が現実味を帯びてきた。






「誠心誠意、謝ってくるよ。ついでに弁解しないと僕の気が晴れない。」


「マジックバリアでも唱えといてやろうか? せめてもの餞別として。」


「いらないよ、そんなの。」






 は深呼吸して、が逃げ込んだ先の船室のドアをノックした。
するとゼシカが出てきてをちらりと見つめた。
ゼシカはすれ違いざまに小声で囁いた。






「ショック受けてるだけと思うけど・・・、地雷だけは踏まないでね。」



「うん。ごめんねゼシカ。」








 は部屋に入った。
お目当ての人物はベッドの上に座って背を向けている。
、と声を掛けるとその肩がびくりと震えた。
そんな反応に軽いショックを受ける。
拒否されているようで辛い。







「あの・・・、さっきはごめん。」


「さっきっていつ?」


「・・・デスセイレスと戦ってる時。」



「・・・がぱふぱふに見惚れてる時のこと?」







 そう思われていたのだと、は悲しくも再確認した。
にしてもド直球で攻めてくるもんだ。
まずはそこから訂正を入れる必要がある。
しかし謝ってばかりではつまらない。
それに、色情魔発言は撤回してもらわなければ気が済まない。





「僕、見惚れてなんかないよ。」


「でもじっと見てたじゃない。いいんだよ、だって健全なる年頃の青年だもん。」



「見惚れる前にびっくりするでしょ普通。
 あんなことされたり見たことないんだし。それに僕、魔物に見惚れなくてもいいような生活送ってるよ。」



「どういうこと・・・?」


「僕は色仕掛けで落ちるような男じゃないからね。むしろ、背中だけでも見てる方が緊張するよ。」







 の肩に手を伸ばした。
しかしあと数センチで手が届く、というところでするりとかわされる。
は眉を吊り上げてをきっと睨みつけた。






「信じてよ、僕は一筋なんだから。」


「でも、私がいい思いするわけないじゃない! 本当は平手打ちじゃなくてメラゾーマだったんだよ!」


「メラゾーマ・・・。」





 あの全てを焼き尽くす業火に包まれていたかもしれなかったのか。
考えただけでもぞっとする。
よほど怒りに苛まれていたのだろう。
その嫉妬され具合が心地良いとか、絶対に口に出して言えない。
言ってしまおうものならば、また話がややこしくなる。
相変わらず拗ねてはいるが、の自分への愛の深さを思いかけない形で再確認したは、
割とすっきりした気分でぱふぱふ事件を解決させたのだった。











































 数日後、すっかり元通りになったは、に向かって意地悪げな顔をして呟いた。





「私もぱふぱふ覚えよっかな。」


「はい!? いやいやいやいや、それは絶対に許さないよ!?」





 以後、『ぱふぱふ』が禁句になったのは言うまでもない。



あとがき

DQ8のドリーム小説ということで、ギャグ仕立てにしてみました。
こんな文章ですが、出来上がった途端にPCがフリーズし、実は2代目です。
リクエスト、ありがとうございました!




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