年忘れクリスマス
「ククール、そっちの準備は出来てる?」
「ばっちりだ。いつでも出発できる。」
馬車の中に次々と物が運び込まれる。
いかにも重そうな箱をヤンガスが運び、いい匂いのする湯気の立っている皿をゼシカとが運ぶ。
小さめの馬車にどっさりと詰め込まれたそれらは、ほとんどすべて食べ物である。
ようやく荷造りも終わったようで、4人がの元に集まる。
「準備はできたね。それじゃ行くよ・・・、ルーラ!!」
光に包まれて次の瞬間、彼らの姿はそこにはなかった。
目の前には見慣れた、かなりの頻度で訪れているいつもの不思議な泉があった。
ここが今日のパーティー会場だ。人間達はそれぞれ持ち場についてなにやらせっせとセッティングを始める。
地面に大きなシートをひき、しっかりと足場を固定してから中央に食べ物をどっさりと置く。
寒くては適わないのでゼシカとが用意してきた薪に、ギラを放つ。
その光は暖かく、そして明るい。が馬姫、ミーティアに向かって言った。、
「お姫様、そろそろ人間の姿になってもいいですよ。」
馬は嬉しそうに頷くと、早速泉の水を口に含んだ。まばゆい光が起こり、例のごとく人間版ミーティア姫が姿を現す。
姫は今日は楽しみです、と言いいそいそとシートの上に座る。彼女の隣にはトロデ王とが座る。
おいおい集まってきた彼らもそれぞれ腰を下ろす。
「今日はミーティアはたくさんお水が飲めるように朝から絶食していましたの。
だからずっと人間の姿のままですわ。」
この日のために絶食までするのか、と一同は目を丸くする。
当の本人はにこにこと笑ったままだ。気を取り直してが言った。
「今日は好きなだけ食べて好きなだけ飲んでいいよ。
食べ物いっぱい持ってきたし、冷めたものも呪文で温めていいって。
それからアルコール苦手な人もいるかもしれないから、無理にお酒を勧めちゃだめだよ。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに彼らは思い思い食べ始めた。
ヤンガスはもっぱら肉とワインを平らげ、ククールはそれが癖なのか、気障ったらしく少しずつ少しずつワインを味わっている。
ゼシカもとても美味しそうに食べ、かなりのピッチでワイングラスを空にしている。
「お姫様はお酒結構お飲みになるんですか?」
「嗜む程度ですわ。」
普段まったく口にしないせいか、姫は嬉しそうに顔色を変える事もなくワインを飲んでいる。
きっとアルコールに弱いであろうは彼女のその飲みっぷりに感心しながら聞いた。
嗜む程度にも程がある。は心配そうな顔をして言った。
「姫、あんまり飲まれますと水が入らなく・・・。」
「お酒とお水は違いますよ? もも飲んだらいかがですか?
はお酒飲めるでしょう?」
彼の忠告にもまるで耳を貸さない。は苦笑して、それから軽くなったワインボトルを手に取った。
「私もちょっとだけ飲んでみよっかな。はい、。」
そういってグラスにほんの少しだけ液体を入れる。
彼女の注いだそれを受け取ると、はありがとうと言って飲み干した。
なるほど、これはあまり強くない。これぐらいなら姫だって飲めるはずだ。
そう思い彼は隣のに目をやった。おいしいね、と言おうとして彼は彼女の顔を凝視した。
妙に顔が紅い。目も心なしか潤んでいるような気がする。
は嫌な予感がした。
「、もしかして・・・、酔った?」
「大丈夫だよ。平気だよ? ちょっとフラフラするだけ。」
そのフラフラが酔ってるってことなんだよとは伝えたかった。
伝えたかったのだが、それを彼女に言っても酔いというものがわかっていないから余計にややこしくなりそうだったので、諦めた。
は何を思ったか、ふらりと立ち上がった。足元が覚束ない。
酔っている証拠だ。危なっかしい彼女を支えようと、も立ち上がった。
手を伸ばそうとする前に、いきなりが倒れこんできた。
「ごめんね、。なんかフラフラするの。変だよね・・・?」
「、やっぱり酔ってるんだよ。ほら、これ飲んで。」
彼女のあまりの酒の弱さに内心可愛いと思いながらも、コップを差し出す。
だが、彼女はふるふると首を横に振る。外野から声がした。
「、俺が飲ませてやろうか、口移しで。」
「、早くをどうにかしないとがかわいそうです。」
どこか、いやかなり楽しげにミーティア姫も言う。絶対彼女はこの状況を楽しんでいる、とは思った。
は彼の胸に身体を預けたままだ。ふと彼女がを見つめた。
酔いが回っているのか、瞳は潤んでいる。もちろんしっかり無意識の上目遣いだ。
は彼女を見て、抑えがきかなくなるのを感じた。
水を口に含む。の顎に手をかけた。そのまま深く口づ・・・・
「あんたはいっぺん死んできなさい!! ククール!!」
ちょうどいいところで背後から火柱が。
ものすごい音に驚いて音のした方を振り向く達。
そこには案の定、羽目を外しすぎたククールがゼシカによって焼かれている光景が。
とその時、はどんと突き放された。腕の中のぬくもりがなくなる。
はっとして見ると、酔って自分に縋りついていたが顔を真っ赤にしてから、軽く2、3メートル離れて立ち竦んでいる。
いつの間にか水を飲み込んでいたが彼女に尋ねる。
「、なんで・・・。酔ってたんじゃ・・・?」
「ご、ごめんね!! なんか気付いたらの中にいて・・・!!
きゃぁっ、ククールが焦げてる!! こ、混乱またしてたとか・・・!?」
すっかり酔いが冷め、今度はあたふたと混乱し始めたを見てはため息をつき、苦笑した。
そして彼女の誤解を解き、ククールを焼いたのはゼシカだという事を明らかにした。
一応ほっとした彼女だったが、それでもまだごめんねと謝り続けている。
「なんでごめんなの。僕の方、いや、姫様が謝んなくちゃいけないのに・・・。」
「ミーティアは悪くないのよ。あら、そろそろ効果もおしまいですね。」
都合良く馬に戻る姫。はの元に駆け寄ってひたすら謝る。
「本当にごめんね! 私にくっついてたから、だから食べ物全部ヤンガスが食べちゃったんだよね!?
おなか減ってたのに、ごめんね!」
彼女の言葉に絶句する仲間達。少しして大爆笑が巻き起こった。
まったく訳のわからないはえ、え、と焦って彼らを見回す。
が笑いを堪えて言った。
「いいんだよ。が抱きついてきたの本当に少しの間だけだったんだから。
それにもう、僕おなかいっぱいだったし。」
「は面白い嬢ちゃんでがすなぁ。」
「さすがミーティアと同じ年頃の娘じゃ。」
曰く、何がなんだかよく覚えていない、訳のわからないパーティーだった。
「ねぇ、今度はが僕だけの為に何か作ってよ。」
「私が? いいよ、昔は自炊してたし、料理には結構自信あるんだ。」
「じゃあは将来いいお嫁さんになれそうだね。」
「ありがとう。」
来年のクリスマスは、と2人で、お手製の料理を囲んで過ごそうと決心しただった。
あとがき
ヒロインの性格暴露シリーズ第1弾(のはず)。
彼女はお酒が飲めないという設定です。甘くないとか、ギャグかよ、と開始を投げないでください。
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