時と翼と英雄たち


バラモス城    2







 強大な力を誇るネクロゴンド城が本当に孤島にあるとは知らなかった。
サマンオサやロマリアのように、治める領土の中でもっとも開けた場所に城があるとばかり思っていた。
それとも、これもバラモスによる占拠のせいなのだろうか。
湖に囲まれた旧ネクロゴンド現バラモス城へと降り立ったリグは、交通アクセスの悪さに苦情を言い連ねていた。
外界に面していないため船も使えない。
険しい山に囲まれているため、人の足でも辿り着けない。
ラーミアの力を借りなければ来られない。
人を招く気があるのか、先祖たちの考えが理解できなかった。





「ちょっと無駄口叩いていいか」


「叩けるうちに叩いとけ叩いとけ」


「旅人国民その他もろもろは、どうやって城とテドンとかと行き来してたんだ?」


「旅の扉を使ってたんだよ。だから私、ロマリアに行く時旅の扉のこと知ってたんだね」


「ほんとになんでもありだなあの国」





 ネクロゴンドの王子として生まれなくて良かったと、リグは心の底から安堵した。
世界の常識からかけ離れているネクロゴンドで暮していたら、城の外では生きていけなくなる。
よく母は染まらなかったものだ。
意志の強さには、今更ながら感心してしまう。




『わたしがお供できるのはここまでです。どうか皆さんお気を付けて・・・』


「ありがとなラーミア。俺らが帰ってくるまで適当に散歩しといていいから」


『はい! ・・・あ、忘れていました。これをリグさんたちに渡そうと思って』





 ラーミアがゆっくりと体を揺らすと、羽と羽の間からひらりと一枚の葉っぱが落ちてくる。
青々とした葉を見ていると力が湧いてくる。
ただの薬草とは違い美味しそうだ。
薬草を嫌う自分向けの美味しくて効き目抜群のとっておきの薬草か何かだろうか。
ラーミアも気を利かせてくれるものだ。
こちらが餌付けされているようにも感じる。





「これは?」


『空を飛んでいるときにたまたま世界樹を見つけたのです』


「世界樹?」


「生き物に命を与える天界の植物だよ。地上にあるとは思わなかったな」


「人が生き返るのか? そんなことあってもいいのか?」


「世界樹の葉で甦らせることができるのは、まだ消滅せずに肉体の近くふよふよ浮いてる奴だけ。リグならわかるだろ、そういうのは」


「ああ、つまり幽霊船の連中は肉体腐ってるから無理ってことか。気絶した奴起こす感じか」


「そうそう。一種の強烈な気付け薬だよ。使い捨てのザオラルみたいな」






 使わないに越したことはないが、バラモスはこれに頼らなければならなくなるほどに強大な敵ということなのだろう。
リグは世界樹の葉を大切に袋に仕舞うと、改めてバラモス城を見上げた。
ネクロゴンド城の面影はどこにもないらしい。
リフォームには成功したようだが、センスは最悪だ。
メイドの代わりに魔物が出迎えるというのも気に入らない。
遠路はるばる勇者一行が乗り込んできたのだから、大人しくバラモスの居場所まで案内してほしい。





「エルファ、早くバラモス倒して母さんにネクロゴンド見せてやりたいな」


「うん! 私の草薙の剣が魔物の血を欲しがってるわ・・・なんちゃって」


「エルファ、そういう物騒なことは言っちゃ駄目よ。バースと一緒に後方支援よろしくね」


「わかってるよライム。援護も回復も任せて」






 主を追い出し勝手に居つき、家賃も踏み倒しているなど不届き千万な魔王だ。
過去20年近くのツケは命でもって払ってもらうしかない。
エルファは気合を込め草薙の剣を握り締めると、バースの制止も聞かず城内へと続く扉を押し開けた。





























 バラモスは建築に関しては、内装においても外装においても最悪というしかないセンスの持ち主らしい。
リグたちは勢いそのままに目の前の豪華な扉から突入したものの同じ場所へと戻ってきたという事態に、バラモスへの怒りを更に募らせていた。
見掛け倒しにも程がある。
エルファでなくても、あそこまで贅を尽くした扉を目にしたら突入してしまうではないか。
味方の魔物たちも騙されてしまう気がする。
バラモスはよほど疑り深い性格をしているのだろう。
リグはまだ見ぬ魔王をそう評価した。





「入り口がフェイクなら、裏口があたりだったりして」


「ありそうだな。じゃあ壁伝いに進んでみるか」





 ライムの指摘を受け、今度はぐるりと城壁沿いを歩いてみる。
生い茂った草に隠れていた小さな扉を見つけ、早速中へ入ってみる。
今まで通ったことのない通路に出くわし、考えが的中していたことにほっとする。
城の造りなら私も少しは詳しいのと、ライムが自慢げに言う。
確かに、城を守ることを仕事としているライムは、アリアハン城ならばどんなに細い抜け道もすべて把握している。
規模も施工者も設計者も違うが、同じ城である限り最低限の常識は同じなのだろう。
国王というよりも少々お転婆な王女が苦手で城に寄りつかないリグよりも、遥かにライムの知識は実用的だった。






「お、空っぽの玉座」


「ほーら俺が言ったとおりだろ。魔王なんてのはいかにもってとこにはいないもんなんだよ」


「ネクロゴンドは遥か古より魔の力を大いに蓄えてる地って言われてたから、バラモスは力により近い地下にいるのかも」


「地下か・・・。エルファ、エルファみたいな神官団員でも立入禁止だったとこってあるか?」


「えっと・・・。うん、あった。地下の研究室には入っちゃいけなかったと思う・・・。タスマン様くらいしか入れなかったんじゃないかな」


「ああ、そこは俺も行ったことない。賢者だった俺も行かせてもらえなかったくらいだからきっと訳ありだな」


「バースが行けたかどうかは置いといても怪しいわね、ちょうど地下だし」


「ああ怪しい。バースが果たして賢者だと認識されていたかどうかは置いといても怪しいな。エルファ、それがどこかこれでわかるか?
 ああえっと・・・、見えてるよな?」






 こいつらは俺の大切な奴らだから大丈夫、悪用なんかしない。
リグは袋の中から王家秘伝の書を取り出しそれに向かって小さく呟くと、城の見取り図のページを開きエルファたちに突き出した。
真っ白なページを見せるわけにはいかないので、本にあらかじめ誓いを立てておく。
生きているかのようなこの本は王家の人間以外には警戒心が異様に高く、こうでも言わなければ他人には何も見せてくれないのだ。
エルファは本を覗き込むと、えっとと呟きとある1ヵ所を指差した。
城の外れにある小さな祠のようだ。
いつも厳重な封印がされてて近付くことすら許されなかったんだよとエルファが付け加える。
リグは本を手に取ると、ネクロゴンド城での地下がバラモス城のどこに当たるのか見比べてみた。





「あ、ここじゃね? ほら、エルファが言ってた場所と同じとこに何か見える」


「ほんとだ、祠じゃなくなってるけどあの辺りだけやたら空気がおかしいよ」


「じゃあバラモスはあそこか。とりあえず城から出て裏庭通んなきゃな」






 リフォーム費用が足りなかったのか、当時立入禁止だった場所はそのまま残しているようだ。
変える必要がなかったのか、手を出すことができなかったのか。
そもそも、なぜ立入禁止だったのか。
リグたちはバラモス城2階テラスからいわくありげな元祠を見下ろした。







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