時と翼と英雄たち


詩人の旅    6







 奇妙な旅になった。
プローズは所構わず歌を歌っては魔物を眠らせるガライと、眠っている間に魔物を叩き斬っていくライムを後方で見やり小さく息を吐いた。
ライムが強いことは知っているのであまり不安には思っていなかったが、ガライのはしゃぎぶりには不安しか抱けない。
後ろで歌力で援護しろと言い聞かせたにもかかわらず、ライムよりも前で歌っては魔物を引きつけ眠らせてばかりだ。
おかげでこちらはガライのお守りと攻撃とライムの援護でとてつもなく忙しい。
モシャスを常時唱えているのでただでさえ面倒なのに、ガライはこちらを買い被りすぎている。
プローズはライムの背後を襲おうとしたスカルゴンにメラゾーマをぶち込むと、戦闘が終わってもなお恍惚とした表情で歌い続けているガライの肩を叩いた。
みっともないことをするな恥ずかしいだろうと小声で詰ると、ガライがにたあ笑う。
何が楽しい、何がおかしい。
なあぜこいつは怒られているのに笑っているのだ。
憮然とした表情を浮かべたプローズは、ガライの発言に片手に魔力を集め始めた。





「ライムはプローズの正体は明かせないけど大事な人なんでしょ? 僕がやんちゃしているのを大人っぽく窘めるプローズにときめくなんてよくあるじゃないか」


「違うし、ない」


「違わないって。僕を誰だと思ってる? アレフガルド中の恋人たちの馴れ初め悲話逢引の数々をこの目で見てきた愛の証人だよ? 大丈夫、僕に任せて」


「だから違う。根本から違う」


「またまたあ。いいじゃないか、アレフガルド人と異界人、しかも相手は恋人がいるっていうのは初めてだからすごく興味があるよ」

「だから!」


「プローズ敵よ、援護をお願い!」


「わかった! とにかく君はもう前には出ないでくれ、僕は君を喪いたくはない!」






 うわあプローズ、それを僕に言っちゃおしまいだよ。
僕がときめきそうだよ、僕もプローズも男なのに。
ガライは戦場から遥か後方で、派手に火柱を立てているプローズを見つめ肩を竦めた。


































 地図上に白い光がぼんやりと浮かび上がる。
やっとできた。
バースは額に浮かぶ汗を拭うと、地図をリグに投げ渡した。
忘れたくてたまらないが忘れることができない異常なまでの強さを誇る愚兄の魔力構造を分析し、地図上に示すのはなかなかに骨の折れる作業だった。
ようやく現れた光は嘘だろうと思ってしまうような草原にぽつりとあるし、ゾーマの寵臣プローズがただの草原に突っ立っているわけがない。
バースは地図を食い入るように覗き込んでいるリグとエルファに、それ失敗かもと声をかけた。
失敗作ならもう1枚作れと即座に返事が返ってくるあたり、我らが勇者はよっぽどライムの行方が気になって仕方がないらしい。
俺がいなくなった時はこんなに取り乱さなかったくせに。
バースはぽつりと寂しく呟くと、リグとエルファが並んで座っているソファの向かいに寝そべった。





「兄貴は散歩でもしてんのか?」


「さあな」


「さあって、兄貴のこともうちょっと関心持てよ」


「やだね」


「親の教育がまずかったからこの兄弟ぐれたのかな、エルファ」


「うーん・・・。・・・あれ? バース、これってやっぱり不良品? お兄さんの光の隣にもう1つ光ってるのあるよ」


「エルファまで不良品って、俺結構頑張ったんだけど・・・。・・・いや、もう1つ? 俺あいつのしか出してないけど隣にもう1つ?」


「あぁあるな。緑色の光。地図の色と被って見にくいんだよ」


「誰かなあ、もしかしてライム?」


「ライムには魔力がないからライムじゃない」






 バースはのろのろと体を起こすと、エルファが指差した白い光の隣へと視線を落とした。
光に触れると、白い光とは違いほんのりと温かい。
バースは脳内の数少ないプローズ情報をかき回し、緑の光に該当しそうな人物を探した。
わからない。
兄に関する情報が少なすぎて何もわからない。
バースは降参の意を込め両手を上げると、再びソファーに寝転がった。






「エビルマージとかじゃないから大丈夫だろ。アレフガルドにも俺ら以外にも魔法使いいるし」


「でもこれに載るくらいだから強い魔力を持つ人ってことだよね? お兄さんの味方だったら交渉するのが難しそう」


「いざとなったらそいつごとリグが洗脳かければいいだけだし問題ないって。とりあえず俺は休む、疲れた・・・」


「エルファ、ちょっとラリホーかけとけ」


「いいの?」


「いいんだよ。俺が今からバースの素行の悪さを親御さんに文句言ってくるから」


「そっか、いってらっしゃい」






 リグってわかりにくいけどすごく優しい。
エルファは深い眠りに就いたバースに布団をかけると、冷ややかな白い光にそっと触れ目を閉じた。







backnext

長編小説に戻る