詩人の旅 7
ただの旅人にしては戦い慣れていて、驚くほどに腕が立つ。
放たれる呪文の威力はその辺りの魔法使いが使うような半端なものではないし、魔力そのものの精度が高いと思う。
魔力を持たないこちらでもわかるくらいなのだから、バースやエルファなど本職の者はプローズの呪文を見ればより、彼のすごさがわかるはずだ。
ライムは狙いを定め的確に魔物を丸焦げにする巨大な火球を放ち続けるプローズを振り返ると、片手を上げた。
人と馴れ合うことが苦手なのかシャイなのか、目が合うとすぐに顔を逸らそうとするプローズを見ていると昔のリグを思い出す。
顔を逸らした後に無視したことに罪悪感を抱くのか、ちらりとこちらを見つめぎこちなく笑うプローズがおかしくも見えてくる。
ガライは見たままに面白いが、プローズも接すればわかる面白さを持っている。
ライムは休息のため急ごしらえで作られた魔方陣の中に入ると、黙々と食事の支度をしているプローズの隣に膝をついた。
魔方陣を作ったのもプローズなのだから、常に魔力を使いながら行動している彼はやはり相当に魔力が高い者なのだろう。
「プローズはアレフガルド中を旅してるの?」
「・・・アレフガルドは闇に閉ざされた世界、行ける場所はそこしかないんだ」
「そうだったわね・・・。信じてくれるかわからないけど、私はここではない世界から来たのよ」
「・・・知っている」
「え?」
「何も。はるばるこんな所に来た挙句仲間とも離れ離れなんて、あなたは運がないな」
「ふふ、そうかも。だって私、これからこの世界で誰かに傷つけられてしまうのだから」
びっくりしちゃうわよねと言い朗らかに笑うライムの横顔を思わず見つめる。
なぜこの人は笑っているのだろうか。
害されると言われているにもかかわらず、なぜ穏やかな気持ちでいられるのだろうか。
思わず怖くないのかと尋ねたプローズは、ぱっと口を噤むと下を向いた。
「あら、心配してくれるの?」
「無事に仲間と合流できるようにと手助けして同行しているのに、傷つけられると言われては僕たちの立場がない」
「そうだったわ、ごめんなさい。ねえプローズ、プローズは予言を信じる?」
「予言者の技量によるが・・・」
「私にそう言ったのは人じゃないから、預言者というよりも予言鳥ね。私は、私を傷つけるのが本望でない人に傷つけられてしまうんですって。
そして私はその人の心当たりがあるわ」
「・・・・・・」
「たとえ本当に怪我をすることになっても、私はもう一度その人に会ってみたいの。
会ったからって何ができるってわけじゃないだろうけど、それでも会いたいって思うんだから私って無鉄砲かしら」
羨ましいと思った。
傷つけようとも彼女の注目を引きつける『その人』とやらが羨ましくて恨めしくて、プローズは思わず唇を噛んだ。
ライムのことはよく知らない。
愚弟の仲間で剣技に優れた美しく、洞察力のある女性としか知らなかった。
ガライのはったりで共に旅をするようになってからは、彼女がいかに強いかを知ることができた。
武力ではなく、心も強い人だった。
だからマイラまで同行してやろうとも思ったし、魔物たちに殺させるわけにもいかないと思った。
下卑た魔物どもにライムはもったいない。
いつも余計なことしかしない親友ガライに、プローズは久々に感謝していた。
「そういえばガライは?」
「もう寝た。彼はどこでも眠れるから」
「ガライは面白い戦い方をするのね、歌力って言うの? 歌で戦う人なんて初めて見たわ」
「ガライはああ見えてもなかなかに優れた吟遊詩人で、彼が紡ぐ詩には力が宿る。・・・それがいいことなのかどうかはわからないけど」
「どういうこと?」
「あなたに頼みがある。もしもこの先ガライが竪琴を手にした時は、必ずそれを奪い取ってほしい。ガライが奏でる前に、必ず」
「・・・どうして? ガライだもの、きっと竪琴だって綺麗に弾くわ」
「言っただろう、ガライが紡ぐ詩には力が宿ると。力は絶大だ、ゆえに時として本人の意思をも凌駕する」
ガライがその力を得たのは僕のせいかもしれないけれど。
プローズの悲しげな嘆きの声に、ライムはそっとプローズの肩に触れた。