は新しく取り替えられたフィールドを見つめ、きらきらと顔を輝かせていた。
スタンド応援が関の山だと思っていたのだが、ベンチで堂々と観戦できるのだ。
しかもフットボールフロンティア関東地区大会決勝戦である。
テンションが上がるのも当然だった。




「・・・まさか、さんが影山に狙われたなんて・・・。冬海先生がさんに名前を訊いていたのはそのせいだったんですね」
「豪炎寺の幼なじみでサッカーにも詳しい雷門のフィールドの女神は、隙だらけだからな」
「フィールドの女神?」
「影山があのお嬢さんをそう呼んでいた。勝利の女神とでも言えばいいものをな」




 夏未は秋と仲良く帝国のメンバー表を覗き込んでいるを見つめた。
本人は影山に目をつけられるということがどれだけ危険なのかわかっていないのだろう。
知らない方がいいのかもしれない。
の性格上、知ってしまってまた余計な事をやりかねなかった。




「あれ? 秋ちゃん、この人ってそんなに強いの?」
「鬼道くんっていって、天才ゲームメーカーって言われてるみたいだよ」
「キドウくん・・・? え、オニミチくんじゃなくて?」
「うん、鬼道有人くんだよ。ほら、あのゴーグルにマントの人」
「げ・・・・・・」



 は帝国サイドで最期の調整を行なっている鬼道を見つめた。
オニミチではなく、キドウだと・・・?
秋が嘘をついているとは思えないし、そういえば先程我が幼なじみもそんな名前を言っていた。
もしもオニミチがオニミチではなくキドウだとしたら、しばらくの間大変申し訳ないことをしてしまった。
今すぐ謝りたい。土下座してでも謝りたい。
初対面の時からずっとオニミチ呼びを許してくれていた鬼道は、間違いなく心優しい人間だった。




、あんまり無理すんなよ?」
「大丈夫大丈夫。あ、スニーカー貸してくれてありがとね半田。試合終わったらちゃんと返すから」
「けど、その片足ローファーで帰んのか?」
さんは私が責任持ってお家まで送るから心配なくてよ」
「ほんとにありがと雷門さん! 交通費浮いて助かっちゃう! あと半田、修也呼べたら呼んできて」




 半田が豪炎寺に声をかけに行き、少しして豪炎寺がこちらへとやって来る。
はベンチから少し離れた所で豪炎寺を向き合った。
気にしないでねと言うと、豪炎寺は怪訝な顔をする。




「今回のこと、修也とは全然関係ないから余計のこと考えたりしないでね」
「・・・元はといえば俺が」
「私、修也に会う前からサッカー観戦してたから修也のせいじゃない。だから試合に集中してね」




 は豪炎寺の背中を軽く叩くと、そのままちらりと鬼道を見つめた。
目が合った気がするが気のせいだろうか。
相手がゴーグルをかけているのでよくわからないが、目が合ったと思った瞬間ぱっと顔を逸らされたように感じる。
もしかして、これが例の部活一筋でデートもドタキャンする彼氏だと思われてしまったのだろうか。
全くもって違うのだ。
いや、豪炎寺は確かに部活一筋で部活のためならデートだってドタキャンしそうだが、そもそも彼氏ではないのだ。
根元から違うから妙な勘違いはしないでくれと、今すぐ彼に言いたかった。




「念願の帝国戦なんだから、かっこいいシュートの2本や3本入れてきてね!」
「ああ」



 雷門中対帝国学園の仕切り直しの一戦が始まった。



































 は腹立たしい思いで味方のゴールエリアを見つめていた。
他に優秀なGKがいればそちらにゴールを守らせたい気分だった。
何なのだ、あの不甲斐ない守備は。
確かに帝国のサッカーは強く、隙のない攻撃に戸惑うのもよくわかる。
だからこそいつも以上に真剣にボールに向き合わなければならないのだ。
それだというのにあのキャプテンは、一体何を考えているのだ。
今もまたキャッチをし損ねコーナーキックの機会を与えてしまった円堂を、は鋭く睨みつけた。
ホイッスルが鳴ったら試合に集中する。
プレーヤーでない自分もそれが当然のことだとわかっているのに、円堂は何を失礼なことをしているのだろう。
無気力サッカーは大嫌いだ。




「やっぱり帝国は強いですね・・・。」
「確かに強いけど、今の円堂くんが弱いだけでしょ」
ちゃん・・・」
「何なのあの態度。魂ちゃんと入れて出直してこいって張り手飛ばしたいくらい」
「でもねちゃん、円堂くんは・・・」
「秋ちゃん、本番にでももだってもないの。なんだかんだあってもこうやって帝国イレブンは全力尽くしてるじゃない。雷門のみんなだってそう。
 全力には全力をもって受けて立つのがスポーツなのに、今の円堂くんは敵にも味方にも失礼なことしてる」




 試合前の円堂に何があったのかは知らない。
秋の口調から察すると何かあったようだが、それらは試合に持ち込むものではなかった。
攻め立てられている状況を打開すべき時なのに豪炎寺までもが守備に回っているし、これでは勝てる試合も勝てなくなる。
豪炎寺とのクロスプレーで足を痛めたらしい鬼道の元へ、春奈が駆け寄る。
動きが鈍くなった帝国の隙を突きここぞとばかりに攻めるが、帝国のGK源田によってことごとく跳ね返される。
それどころか、カウンターを狙われ1点を献上してしまう。
新必殺技らしいペンギン攻撃は万全の状態の円堂でも防げなかっただろうが、あまりにも悔しい前半だった。




「みんなお疲れ様。後半頑張りましょ!」



 イレブンを元気に励ます秋の横でむうと押し黙っていただったが、とりあえずここは励ますべきだろうと思い直し後半に期待してるねと声をかける。
マネージャーの仕事は相変わらずできないしやってみようとも思わないので、突っ立ったまま円堂を見つめる。
後半になったらきちんとした働きを見せてくれるのだろうか。
今すぐにでも張り手を飛ばしたい衝動に襲われるが、必死にそれを押さえ込む。





「ああ修也。前半だいぶ走ってたけど大丈夫? まあ多少じゃへこたれない筋肉バカだからそんなに心配してないけど」
「・・・源田のパワーシールドは衝撃波のようだ」
「ふーん・・・。・・・駄目、今日調子悪いや」
「やっぱり何かあったんじゃないのか?」
「ううん大丈夫。わかったら試合中に叫んでいいかな。あ、でも聞こえないか」
の声なら聞こえる。・・・円堂のことは俺も気になっている」
「張り手の一発くらい飛ばしていいからね」




 ハーフタイムが終わりフィールドに戻ろうとする豪炎寺に染岡が並ぶ。
後半は攻めに行くぞと声をかけると、妙ににやついた笑みでおうと返され首を傾げる。




「『の声なら聞こえる』かー。まるで王子様だな豪炎寺」
「・・・軽口が叩けるくらい落ち着いているなら後半はいけるな」
「俺らはただ全力でぶつかりゃいいだけだからな。しっかし、いちゃつくなら余所でやれ余所で」

「・・・筋肉バカと呼ばれるのがそんなに嬉しいのか」
「・・・俺が悪かった」




 天才ストライカーもただの筋肉バカ。
中学サッカー界において誰も右に出る者がいない豪炎寺をあっけなく潰すに、染岡はえもいわれぬ恐怖を覚えたのだった。







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