ファイアトルネードが円堂に直撃する。
雷門イレブンも帝国イレブンも、秋や春奈たちも驚きの表情で見つめる中、だけはただ1人顔色を変えることなく2人を眺めていた。
張り手の一発は彼の中ではすなわちファイアトルネード1回になるのだろう。
地面に倒れた円堂に檄を飛ばす豪炎寺に、は清々しいものを感じた。
先程までずっと抱き続けていた苛立ちも治まる。
あれだけの檄を飛ばされてもなお吹っ切れていないのならば、円堂もそこまでの男だ。
はゴールへと戻った円堂の顔が前半とは明らかに違うのを確認し、勝てるかもと小さく呟いた。




「後は点を入れなきゃいけないけど・・・。相手のGKからじゃいくら豪炎寺くんたちでも・・・」
「・・・ねえねえ土門くん、衝撃波ってことは形はないんだよね」
「そうそう」
「ふーん・・・。ベンチの人ってどこまで出ていいの?」
「そこの線までだよちゃん」
「ありがと秋ちゃん。あ、ちょっと耳塞いでてねみんな」




 は教えられたラインぎりぎりまで出てくると、じっと豪炎寺を見つめた。
彼も気付いてくれただろうか。
実物に直面した彼の方がわかりやすそうなものだが、一応言ってみよう。
ボールが前線を駆け上がる染岡へと移る。
は両手を口元へ寄せると、声の限り叫んだ。




「修也! できるだけゼロ距離でちょっと溜め!」
「ちょっとさん、応援ならもう少し静かに・・・!」
「あ、ごめんね雷門さん。もう終わったからいいよ」



 染岡がドラゴンクラッシュを放つが、パワーシールドで弾かれる。
しかし遠くへ弾き出されるはずのボールを豪炎寺がそのまま超至近距離で奪い取った。
衝撃波の壁の薄さには気付いていた。
薄いから、破れればあっけないこともわかっていた。
破る方法が、今しがたが絶叫した内容だった。
壁にとにかく押し込むためにできるだけシールドの近くで力強いシュートを決める。
ちょっと溜めるというのは、容易に弾かれないようにできるだけボールに触れておくということなのだろう。
おそらく、あの言い方ですべてを理解できる人間はそういまい。
もう少し詳しく言ってくれても良さそうなものだったが、あれがの精一杯なのだ。
教えてくれただけでも感謝すべきだった。
崩れかけたシールドにファイアトルネードをぶち込む。
渾身のシュートがゴールネットに突き刺さり、雷門イレブンが豪炎寺を取り囲んだ。




「すげー! パワーシールド破るなんてすげーよ!」
「パワーシールドは至近距離からなら決められる。この調子であと1点だ」




 ベンチへと目をやると、座ったままぼうっとしていると目が合う。
ひらひらと手を振るへ親指をぐっと突き立てると、がアンコールと言って返す。
言われなくてもわかっている。
あと少なくとも1点取らなければ帝国に勝つことはできないのだ。
せっかく教えてくれたパワーシールド攻略法なのだから、もっと活用していきたかった。




「まー、ほんとに雷門も強くなったよねー。あの天下の帝国相手に互角の戦いだもん」



 決勝点を奪いにフィールドを駆け回る10人を見つめ、は感慨深げに呟いた。
10点も20点も入れられ地面に倒れ伏していたあの頃が嘘のようだった。
一生懸命特訓して、技を磨いて、人の成長というのをまざまざと見せつけられた。
何をやってもぱっとしない半田ですら、今はかっこよく見えてしまう。
皇帝ペンギン2号を両手を使ったゴッドハンドで止めた円堂が、そのまま敵サイドへ突撃する。
パワーシールドの更に上をいくフルパワーシールドをものともせず繰り出された必殺技と必殺技の合体技が帝国のゴールを破ったと同時に、試合終了のホイッスルが鳴り響く。
スタンド中から雷門中コールが聞こえる。
初めは誰も応援に来ていなかったのに、今はこんなにも多くのファンがいる。
体当たりのプレーを皆が認めてくれた証だった。
フィールドの円堂たちの元へ駆け寄る秋たちに続き、ものんびりと向かう。
走れないのだ、靴が大きすぎて。




「はーんだ」
「お! 見てたか、俺たちの・・・うおっ!?」
「いっやー、今日の半田はかっこよかったよー、ステキステキ半田くん」
「なんで棒読みなんだよ! ていうか離れろ、抱きつくな!」



 奮闘のご褒美と靴の礼も兼ねて抱きつくと、猛烈に拒絶され奇声を上げられる。
せっかく可愛い女の子が労をねぎらってあげたというのに、何だその態度は気に食わない。
って欧米風の愛情表現するよなあと秋と笑い合う土門に、半田は足元がふらついているを引き剥がすことをほんの少しだけ躊躇った。
そうだ、これは足元が覚束ないこいつがうっかり倒れ込んできただけかもしれない。
それをそっけなく引き剥がすと、また音無あたりから『素直じゃないです』とでも非難されそうだ。
そもそも俺の素直って何なんだ。
ぐるぐると混乱してる半田に飽きたのかはあっさり離れると、今度は笑いながらこちらを見ていた風丸に抱きついた。
両手で受け止めてくれるあたり、さすがは風丸だ。
半田との違いを感じる。



「風丸くんも今日、すごくかっこよかったよ!」
「ありがとう。やっぱりが俺らを一番よく見てくれてるファンだよ」
「わ! どっかの半田と違って風丸くん優しい! ぎゅってしちゃお!」
「よしよし、ぎゅうー」
「壁山、帝国にお花畑ってあったでヤンスか・・・?」
「お、俺も今、風丸先輩と先輩の周りがキラキラ輝いて見えるっス・・・」




 なんだか今日はハグをされたりしてばっかりだ。
豪炎寺のは普段からファイアトルネードをぶちかましているせいか異様に熱くて、半田のは優しくぎゅっとしてくれた風丸と比べると格段にぎこちなかった。
突然のハグに対処しきれなかっただけなのかもしれないが、やはり面白くない。
夏未の車の前まで靴を借り、座席に座ったところで返す。
いいのかと尋ねてくる半田にいいのいいのと答えると、は夏未に合図した。



「じゃみんな、ごきげんよう」

「なぁに修也。・・・あ、そういや私」
「・・・雷門、をよろしく頼む」
「ええ、任せておいて」




 自宅までの道のりは、にとっては未知の体験の連続だった。
まずもってソファーの柔かさが尋常でない。
車内専用スリッパは、そのままお持ち帰りしたくなるくらいにふかふかだった。
何かと厄介事に巻き込みたがる夏未と2人なのはいささか不安があったが、話してみると彼女も普通の少女だとわかってくる。
責任感が強くて大人びているから、きつめの性格に見えるのだろう。




「雷門ってリボンの色が自由なとこがいいよね。みんな個性あるもん」
「でもさんはリボンをつけていない校則違反者ね」
「え? あ、ほんとだ。鉄骨の時に落としたのかも。全然気付かなかった」
「もう・・・。これ、制服のカタログ。この中から好きな色選んで買ってもらいなさい」
「うーん、どの色にするか悩むなー」




 これがいいかな、それも似合いそうよとわいわい選んでいると、あっという間に自宅の前に到着する。
は片足は靴下のまま道路へ飛び降りると、ありがとう夏未さんと言ってにっこりと笑った。
ほんの数十分の間に『雷門さん』から『夏未さん』と名前で呼ばれる仲に発展していたらしい。
悪い気分ではない。友人が増えたようで心地良かった。
ここまで弾けた子を友人に持つのは初めてだった。
は夏未を見送ると、早速母に靴買ってとおねだりを始めた。




ちゃん、片方だけ靴失くすなんてどうしちゃったの?」
「帝国で会った変なおじさんから逃げてる途中に脱げちゃったみたい」
「あらあら、でもちゃんが無事なら何よりよ。リボンもその時に?」
「うん。でもたくさん色があって選べないから、みんなに何色が似合うか訊いてみる」



 シャワーを浴びるために服を脱ぎ、その時になって初めては気が付いた。
腰のあたりに見覚えのない痣がある。
試合中もずっと痛いとは思っていたが、何なのだろうこの痣は。
見えないところだからいいが、ちょっとしたDVの跡のようにも見える。
いつぶつけたのかも記憶がないままシャワーを浴び終え部屋に戻ると、携帯コールが鳴っている。
誰からの着信も確認せずに通話ボタンを押す。




、本当に大丈夫なのか」
「うーん・・・。修也にずっと言わなきゃいけなかったことと訊きたいことがあるんだけど」
「何だ」
「私の腰のあたりにすっごい痣あるんだけど、心当たりある?」
「・・・鉄骨が落ちてきた時にできたのかもしれない」
「でも私、修也が引っ張ってくれたから直撃しなかったんじゃないの? ほんと修也すごいよね、ありがとう」
「引っ張ってないし、助けたのは俺じゃない。鬼道がにボールをぶつけて、が飛んだのを俺が受け止めただけだ」
「鬼道・・・、あぁ。オニミチくんか・・・」




 は鉄骨落下シーンを思い出した。
何かにぶつかったのか、体が前のめりに倒れた気がした。
何にぶつかったのかは今でもわからないが、鬼道が蹴ったボールだったのかもしれない。
いやだがしかし、考えてみるともう1つ心当たりがないわけではなかった。
ただ、それで痣ができるのかまではわからないのだが。



「あのさ、人を気絶させる時は鳩尾突くんだよね、腰じゃないよね」
、本当に何があったんだ」
「まあそれは気が向いたら話すから。・・・鬼道くんにお礼言うの忘れちゃった、今度言わなくちゃ」
「知り合いなのか?」
「ほら、いつだったか帝国の生徒の学生証拾ったじゃん? あれ、オニミチくんだと思ってたら実は鬼道くんだったんだよね」



 雷門中の近くを散歩していた鬼道に会ったこと。
御影専農の時は実は一緒に観戦していたこと。
その時に初めて彼がサッカー部員だと知ったこと。
黙っていたことを洗いざらい話して聞かせると、すっきりした気分になる。
黙っていたことを怒られると見越してごめんねと謝る。
しかし豪炎寺は意外にも、知り合いだったから良かったと返してきた。
これにはが拍子抜けしてしまった。
いつもの彼ならばどうしてそんな危険なことをしていたんだと説教の10分でもしてきそうなものだが、やけに静かなのが恐ろしい。
どこかまた怪我でもしてしまったのではないかと不安になる。




「・・・まあ、色々あったけど地区大会優勝おめでとう。修也もかっこよかったよ」



 特にファイアトルネードをぶつけるとことか最高だったよと感想を挙げ始めるに、適当に相槌を打つ。
自分のせいじゃないとは言ってくれたが、なんだかんだで試合に来るように頼んでいたからこそ起こってしまった事件のような気がする。
後で湿布薬でも渡しておこう。
そうだ、その時についでに先日風丸と一緒に買ったあれも渡せばいい。



「あ、ごめん。湯冷めしちゃいそうだからいい加減服着るわ。ついでに電話も切るね」
「そういう報告はいらない」



 ボールをぶつけられて更に頭がおかしくなったのか。
豪炎寺は通話が途切れた電話を見つめ、心配するだけ無駄かもしれないと1人呟いた。






タイトルセンスの悪さも影山の陰謀なのです






目次に戻る