劇場版 フィールドの女神様エターナル










 そんなに遅れてはいけない大事な試合ならば、鈍足帰宅部のこちらを置き去りにしてとっとと行けばいいのだ。
早く準備をしろと急かすほどに急いでいるのなら、初めから1人で行けば良かったのだ。
誰も行かないとは言っていないし、あとでゆっくりと1人で行くと言ったのにどうやら奴はこちらの話などてんで聞いていないらしい。
はぐいぐいと腕を引っ張る幼なじみの背中に向かって、この乙女心知らずがと罵声を浴びせた。




「そんなに早く行きたいんなら今すぐこの腕離して1人で走ってよ」
「今そうしたら、15分前の俺は何しにの家に来たんだ」
「そこから間違ってるって言ってんの! 大体一緒にってか、そんなに私と一緒に行きたいんなら私に合わせるべきでしょ」
の足に合わせていたら間に合うものも間に合わなくなるだろう」
「む、なんかそれじゃ私の足が短いみたいじゃん」
「事実だろう、は俺よりも足が短い」
「ひっどい最悪! ちょっとタクシー!!」





 口が減らない奴だ、まだ走り足りないのか。
朝からぐちぐちぐちぐちと文句ばかり言って、それで今日の出来が悪くなったらどうしてくれるのだ。
今すぐ立ち止まって説教をしたいが、悔しいがそれは試合が終わってからにしてやる。
豪炎寺は悠に10分は遅れ、おそらくは既にミーティングが始まっているであろうロッカールームの扉を勢い良く開けた。
よほど必死な形相で来たことに驚いているのか、1人を除き皆ぎょっとした顔でこちらを見つめている。
やめてくれ、注目するのはシュートを決めてからにしてくれ。





「・・・待たせたな」
「おっ、おう。まったく、お前はいつも遅いんだよ・・・!」
「すまない、が準備に手間取ってしまった」
「知ってる! よーく知ってる! だから豪炎寺、とりあえずその後ろのとゆっくり別れよう?」
「何を言ってる? はもう観客席に「行ってると思った? ざぁんねん、どっかの馬鹿力が私の腕つかんだまんまなの」
「・・・・・・いたのか」
「いたのか、じゃないわよ!
 ほんと何やってんの修也ばっかじゃないの、今日が大事な日ってことくらいそりゃあ私だってわかってるわよだから念入りに念入りにおしゃれして髪結んでってしたのにほんと馬鹿!
 修也どうしてくれんの、こんなんじゃ風丸くんにぎゅうってしてもらえないかもしれないじゃん!」





 ああ、始まってしまった。
こうなってしまっては長いのだ、豪炎寺も折れないから長期戦になるのだ。
しかし悲しいかな、キャプテンでチームメイトをまとめるべきこちらにはチームメイトではない友人のを止めることはできない。
むしろ、迂闊に触れようものならばとばっちりを喰らって比喩でもなんでもない張り手を飛ばされかねない。




「やだなあ、そんなの言ってくれなくてもいくらだってするよ。気遣わせちゃってごめんな、今日も可愛いよ、よしよし」
「きゃあ風丸くん! いい今あんまり可愛くないから見ちゃ駄目! かも!」
「そうかな? 俺は充分可愛いと思うけど、じゃあが落ち着くまでこうしてるよ、ぎゅうー」
「きゃあああ風丸くん大好き・・・!」




 世界だか地球だか銀河系だか、とにかく命拾いした。
今にも死んでしまいそうなゲームメーカーはいるが、彼は死にかけ慣れているのでそう心配はないはずだ。
松風たちお花畑初心者もかなり驚いているが、あんなもんだろとやたら冷静に分析している霧野もいるので彼を基準にしてとりあえずこの場を進めていくことにする。
風丸がいて良かった、やはり彼がよりも強い、地球内外問わず生命体の頂点に君臨する神なのだ。
自称他称通称『神』が跋扈するこの世界で、ようやく円堂は真の神に巡り会えた気がした。





「風丸、お前も神だったんだな・・・」
「ははは、何だよ円堂俺は人間だぞ?」




 神とは僕のことを言うんだよ、円堂くん。
なぁんでアフロがここにいんのよあんたが私の味方になったこと一度もないくせにどうして味方面してんの。
相変わらず手厳しいなあ、さすがは破壊神。
わっけわかんないこと言ってるとぶつわよ。
見た目こそ中学生のそれだしなぜ生まれ年の違う人々が皆中学生の姿でいるのかはわからないが、どうやらは彼女が生きてきた世界の中では破壊神という異名も授かったらしい。
試合前からに派手に返り討ちにされ顔面蒼白になっているアフロディの肩にぽんと手を置くと、円堂は行こうぜと声を上げフィールドへ足を踏み出した。












































 薄々わかっていたが、やはり敵らしい。
このユニフォームを渡され、地球人離れした奇特な登場方法を打ち合わせで聞いた時から予想はしていた。
ならば徹底的にやってやろうと人相の悪い笑顔の練習だってしたし、髪だって染め直した。
身も心もすっかり不良になりきれていたのに、いや、だからだろう。
疫病神にしてすべてのお膳立てをぶち壊す破壊神の采配は、どのゲームメーカーや監督よりも的確だ。
あっれーあっきーまぁたそんな悪ぶっちゃってわかった、おしゃれしすぎてお金なくなって元に戻せないんでしょ!
路銀が尽き彷徨っていた時にそう叫ばれ拾われた瞬間に、不動は自らと彼女の立場を完全に理解することができた。
真帝国学園のこちらと雷門中のは決して同じフィールドには立てない。
では今まで立てた験しがあったかといえばそれも疑問を浮かべざるを得ないが。






「つーか周り自称含めて宇宙人ばっかだし。イロモノチームならちゃんも間違いなくこっちだろ、ちゃんが一番やばいっての」
「不動君、今日は『ちゃん』禁止だから」
「ああ? はっ、さてはてめぇもぼこぼこにやられたくちか」
「いいや、俺たちはぼこぼこじゃなくてめしゃめしゃだった。未遂だったとはいえ、いったい誰があんな子に鉄パイプ持たせたのか・・・」
「俺だよ」
「・・・不動くん、君の宇宙人ネームはメッキーとスキンとハゲとどれがいい?」





 スキンヘッドではないし、ハゲでもないしこれはソフトモヒカンというれっきとしたヘアスタイルだ。
不動は不穏な笑みを味方に振り撒くグランに、チームの行く末を案じた。







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