どこで観戦しようか散々迷ったが、せっかくだから選手入場口で見せてもらうことにした。
ここに急ごしらえの座席を用意して観戦するとスタンドと同じくらいわくわくする。
それにここならハーフタイムでのベンチ訪問にも近いし、実はいいことづくめだ。





「グランくんチームがグランくんとキーパーとあっきー以外ほっとんど知らない人だけどまあいっか! 修也チームにも知らない人いるし」




 昔は豪炎寺くらいしかまともに見ておらず、その他は動きと特徴と背番号くらいでしか認識していなかったのだから当時と比べればましになった方だ。
はキックオフと共にフィールドを走り始めた豪炎寺たちをじっと見つめた。
チームを組むのは初めてのはずなのに、パスの精度やタイミングは驚くほどに良い。
いつも無愛想で歳に似合わず老け込んだ顔ばかり見せている剣城も、今日は豪炎寺と一緒にプレイできることがよほど嬉しいのか生き生きとしている。
あんな表情を普段から浮かべていてくれればイケメン度も増していたのに、豪炎寺といい剣城といいポーカーフェイスのむっつりサッカーバカは生き方不器用だ。
は剣城のシュートを必殺技で止め、カウンターに打って出たグランたちへと視線を移した。
地球の重力をものともしないのか、宇宙人主体の彼らは素早いカウンター攻撃が持ち味らしい。
風丸のカットも難なく突破しそのままシュートを放つなど身体能力にも優れ、動きにキレがある。
今日の試合に備えて相当特訓してきたと自負する円堂が守るゴールなのでそう破られないとは思うが、速攻が脅威なだけには早いところ先制点を入れておきたい。





「作戦立てるのは鬼道くんで、選手動かすのは神童くんの方がわかりやすいと思うんだけどむーん、ゲームメーカー2人って豪華すぎ、響木監督超楽じゃん?」




 今はまだこれといった必殺タクティクスもフォーメーションも作るべき時ではない。
初めて対戦するチームの行動パターンや選手個人の力量を図り、指示らしい指示を出せるようになるのが今の時間だ。
外野が見ていてもわかってきたのだから、こちらよりも遥かに場数を踏み頭が切れ、実際に敵とぶつかっている鬼道や神童ならばもっと正確に把握しているに決まっている。
神童のすごいところは自らも戦いながら数十手先の相手の行動も見通し、神のタクトと呼ばれ絶対にパスコースを作り出す先見性の高さだ。
鬼道にももちろん神童のような見通しの明るさはあるが、鬼道の指示は視覚的に光の道ができるわけではないのでその分神童の軍配が上がる。
・・・と言い切ったら鬼道がしょげてしまうので、これは胸にしまっておくことにする。






「あっきーもゲームメーカーっちゃメークするけどあっきーは言わないもんなあー。悔しいけどアフロに記念すべき先制点入れさせてやるか、悔しいけど」





 ザ・バースってそれグランくんによく似た基山くんが吹雪くんあたりとやってなかったっけ?
なんでアフロがやってんのよ、そこゴットノウズでないと神感ないただのアフロじゃん?
案の定、神感がなかったためにシュート後松風や剣城にアフロさんアフロさんとアフロ呼ばわりされてい困惑しているアフロディに、はやるじゃんアフロと追撃の声援を送った。




































 存在を忘れていたわけではないがうっかりしていた。
うちのゲームメーカーは仕事をしないゲームメーカーだった。
しかもこのゲームメーカー、まだゲームメーカーとして覚醒する前の二流時代の設定でチームに入っちゃったからゲームメーカーでもなんでもないんだった。
困ったなあ、こんなことなら選手入場口でのんびりしてるさん拉致してでも不動君を覚醒させておくべきだったなあ。
ろくなゲームメーカーがいないチームでゲームメーカーから裏キャプテンまで2人も3人も揃っちゃってる相手に挑むなんて、僕たちかなりの戦士だ。
いや、僕は紛れもなくハイソルジャーだけど。
グランは個性ばかりは恐ろしく強い味方をぐるりと見回し、覚悟した。
大丈夫だ、僕がやる。
難しい戦い方を思いつくことはできないが、何をすればいいのかはわかっている。
今やるべきは、精強すぎる相手FWを徹底的にマークしてパスをことごとくカットすることだ。
シュート技のあるMFもいるが、戦線が伸びれば必ず隙が生まれ、そこを突けばゴールまでは遠くない。
グランは指示通りに動き機能し始めたことを確認すると、自らも前線へ上がり始めた。
突破力のある白竜がパスを受け構えに入った直後、空が曇り始める。
天変地異すら起こせる強力なシュートにゴッドハンドが耐えられるわけがない。
円堂は軽々と吹き飛ぶと、起き上がるなりスッゲーと歓声を上げた。





「お前、スッゲーシュート持ってるな!」
「円堂、相手を褒めてどうするんだ・・・」
「だってスッゲーじゃん! 風丸はスッゲーって思わないのか!?」
「そりゃ思うけど・・・、俺たち同点にされちゃったんだぞ」
「あ」
「次は守るぞ、円堂!」
「おう!」




 豪炎寺や剣城にパスが回せず、松風たちMFだけで攻め上がるにも限界がある。
流れは明らかに向こうにあるし、守ってばかりでは体力の消耗も激しくなる。
中盤が手薄になれば狙ったようにそこにつけ込まれ、またもやシュートチャンスを与えてしまう。
グランの流星ブレードをすんでのところで弾いた円堂は、フリーとなっていた瞬木が放った必殺技に成す術なく倒れた。
完全に後手に回っている。
は立て続けに失点しあっさりと逆転された円堂たちにあーあとため息をついた。
このまま鬼道が黙っているとは思えばいが、現状あまりにも分が悪い。
豪炎寺にパスできず決定的な攻め手を欠いた状態では、まだ相手の攻撃は続くだろう。
それにさすがは名将影山だ、逆転を期にGKをロココに代えてきたあたり守備も疎かにするつもりは微塵もないらしい。
うずうずする。
片時も気が抜けない試合にむずむずする。
やはりサッカーは観て楽しむのが一番だ。
もうちょっと自分でどうにかしなさいとよ他人任せに発破をかけるのが一番だ。
は前半終了の笛の音と共に立ち上がると、円堂たちが引き上げたベンチへと向かった。





「はぁいみんな、前半お疲れ!」
「やっと来てくれたのか」
「別に私いなくても鬼道くんと神童くんいればどうとでもなると思ってたんだけど、まだどうとでもなってなかったから来ちゃった」
「後半はカノンを入れて攻め上がろうと思っている」
「そうじゃないと勝てないもんね。カノンくん入れたら中盤も厚くなるし、あちらさんのDFもそろそろ我慢できなくて上がって来るだろうし」
さんはベータたちを知ってたんですか?」
「まっさかー。神童くん、神のタクト良かったよー、ねぇねぇあれってどうやったら光の道作れんの? あれ良かったら鬼道くんにもコツ教えてくれない?」
「えっ、お、俺が鬼道さんに・・・・・・!? できないです、そんなの!」
「む、神童くん冷たーい」
「やめないか、神童を困らせるようなことを言うな。それに、今の俺じゃは不満か?」
「そんなことないけどー」




 窘める鬼道に殊勝に返答するを見て、意外だと思ってしまう。
ロッカールームにいた時はあんなに豪炎寺に刃向かって貶していたのに、はもしかして鬼道に何か弱味でも握られているのだろうか。
に弱味などないように思えるが、鬼道は世界を代表する天才ゲームメーカーだ。
まだ自分には見えていないだけかもしれない。
神童は鬼道を憧れの眼差しで見つめた。





「つーかさあ、なぁんで修也は大人しくマークされっぱなしなの」
「仕方ないだろう、マークが厳しいんだ」
「そんなの今に始まったことじゃないでしょ。あのねえ、試合で大人しぶりっこしてどうすんの、ヒートタックルどうしたわけ?」
「あ、あのさん、責めるなら豪炎寺さんだけじゃなくて俺も・・・」
「もー京介くんもめっ!」
「め・・・っ!?」
「・・・剣城、お前はこんながいいのか・・・?」
「充分すぎると思います」
「・・・俺にはお前がよくわからん」
「あーっ、修也今なんか私の悪口言ったでしょっ、今イラッとしたもん!」





 ファイアトルネードしないと許しませんんーと喚くにわかったと返した豪炎寺の口元は、少しだけ緩んでいる。
やれって言われたらやるだろうし、やってって言われてもやるだろうし、何も言わなくてもきっと豪炎寺はファイアトルネードをするつもりなのだろう。
ファイアトルネードがすべての原点で2人を何よりも強く結びつけているものだとお互いわかっているから、いつまでも大切にしているのだ。
剣城はハーフタイムが終わりフィールドへ戻る豪炎寺の背中に呼びかけた。




「豪炎寺さん、ファイアトルネードに俺も混ぜて下さい」
「ほう? ついてこれるのか?」
「俺は自分のことをさんの一番弟子だと思っています。豪炎寺さんこそ大丈夫ですか?」
「誰に向かって言っている。俺は、に作られたが理想とするストライカーだぞ」





 今も昔も世界の中心はだ。
たとえ今のの世界の中心に一番近いところにいるのが自分ではなくて鬼道であったとしても、ファイアトルネードを打つ時だけはの一番になれる。
誰にも邪魔されず、過ぎた日々と進化する明日に思いを馳せることができる。
松風のシュートで同点に追いつき、舞台は整った。
猛チャージを掻い潜りパスを繋げてくれたチームメイト全員の思いの籠ったサッカーボールを高く蹴り上げ、足に炎を纏わせる。
今ならば、どんなゴールもこじ開けることができる。
それができるだけの力と自信を授けてくれたのは他でもない、だ。
ファイアトルネードダブルドライブがゴールに突き刺さった直後、試合終了を告げるホイッスルが高々と鳴った。





































 今日はすごくいい日だった。
は上機嫌で自宅へと帰りながら、隣を歩く豪炎寺の話を聞いていた。
あそこはもっとこうすべきだった、あれの対応は良かったととにかくよく喋るが、それだけ彼もまた充実した試合ができたということなのだろう。
次にまたみんなで集まるのっていつかなあ、次はフィディオやマークなどイケメンももっと増やして、イケメンオールスターズを結成してほしい。
夢のイケメンオールスターズのスタメンやベンチを考えていたは、豪炎寺の問いかけにへ、と返した。





「何か言った? あっ、修也も顔はいいからFWにしとくね!」
「何を言ってるんだ・・・。ファイアトルネードはどうだったかと訊いている」
「あー師弟揃い踏みって感じでさっすが京介くん、ナイスアシストだった」
「俺はどうだった?」
「うん、良かったよー」
「それで?」
「それでって、それでおしまい?」
「もっとあるだろう。少なくともいつもは5つは言ってるぞ」
「えーだってあれは正確にはファイアトルネードじゃないじゃーん。私が見たかったのは修也の! ファイアトルネードだったんだけどなー」
「・・・・・・」
「何よ、悔しかったら次で打ってよ」
「わかった、約束する」





 こだわりが、面倒臭いようで嬉しい。
豪炎寺は今日の夕飯なんだろなーと暢気に声を上げるに、うちはハンバーグだと答えた。






「じゃあ今日お家寄って帰っていーい?」「おばさんにちゃんと連絡入れ「もしもしママー?」






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