過去の世界で激戦を繰り広げそれなりに痛めつけられたせいか、体の節々が痛い。
成長痛だと思いたいが、生憎と身長は1センチも伸びていない。
筋肉痛に見舞われるほど柔な体ではないつもりだが、それだけ曾祖父たちとの戦いは厳しかったということだろう。
カノンは痛む体を引きずりながら教室へ入ると、昨日はなかった隣の空き机を見つけ首を傾げた。
転校生でもやって来るのだろうか。
ホームルームでそう言われた記憶は、ぐっすりと居眠りをしていたため微塵もない。
何にせよ友人が増えるのはいいことだ、できればサッカー好きだといい。
予鈴が鳴り担任教師の後に続いて入ってきた転校生の姿を認めたカノンは、頬杖をついていた左手を思いきり顎から外した。
素っ気ない自己紹介を済ませ隣席に座ったクラスメイトの横顔を覗き見る。
不躾な視線に気付いたのか、くるりと顔を向けられカノンはぴしりと固まった。





「さっきから人のことじろじろ見てなに」
「あ、いや、その・・・」
「私が可愛いから見惚れるってのはわかるけど」





 この可愛さ、このおっかなさ、間違いない彼女だ。
やっべーひいじいちゃん、俺伝説のファイアトルネードの遣い手の子孫とお近付きになれるかもしれない。
お付き合いを前提にサッカーやろうよと叫び頭を下げたカノンを、転校生は躊躇うことなく叩いた。












































 優勝セレモニーが終わり、円堂たちよりも一足早く会場を抜け出し夕香の元へ向かう電車の中で寝こける幼なじみを見下ろす。
疲れているのはこちらの方で眠りたいのもこちらなのだが、先に眠られてしまっては見張り番をするしかない。
観戦するだけで疲れるものなのかとも思ったが、今日はただの試合ではなかったのでも精神的に疲れたのかもしれない。
豪炎寺はを見ながら試合を思い出し、ふいと目を逸らし口元を抑えた。
いつどこでどんなタイミングで性格が豹変するのかわからない幼なじみを持つと大変だ。
王牙学園の猛攻猛チャージに圧倒され起き上がれなくなった時は、耳だけは正常に働き音を収集していた。
大胆な子だと思う。
衆人の前で何度も人の名前を呼んで叫び、物怖じしない子だと思った。
恥ずかしさや喧しさではなく、嬉しさや喜びが今でも全身を包み込んでいる。
出所不明の愛おしさもあるのだから、あの時のの言葉がいかに強烈だったかよくわかる。
嬉しすぎて起き上がることができなかったのかもしれない。





のおかげかもしれないな・・・」
「ん・・・」
「・・・起きたか? よく寝てたぞ」
「んー・・・、ああ体痛い。どうしたの修也、顔にやついて気持ち悪い」
「気のせいだ。・・・ああそうか、これか、それがこういうことか」
「さっきから人のことじろじろ見てなに」
「いや・・・。
「何よ」
「可愛いな、意外と」





 まだ寝ぼけているのか、ぽかんとした表情のままのにもう一度可愛かったと伝える。
の顔が見る見るうちに赤くなり、口が何か言いたげにぱくぱくと開く。
照れているのか、可愛い。
風丸に倣い可愛い攻勢を続けた豪炎寺の頬が思いきりつねられた。





「な、な、なぁに言ってんのこの人!」
「ひゃわいいって言ったふぁけひゃ」(可愛いって言っただけだ)
「そうやって心にも思ってないこと言って人をからかって修也ほんと性格最悪! もう褒めない、半額どころか全然褒めたげません!」
「ひゃんでひょうなる」(なんでそうなる)
「なんででも!」





 ぐにぐにぎゅうと頬をつねり、いーっと顔をしかめる。
本気で痛がっているようだから、豪炎寺の突然の可愛い宣言は夢ではないらしい。
最悪だ、こんな気味悪い現実なんていらない。
顔が熱いのは怒っているからで照れではない、断じて違うと信じたい。
は豪炎寺の頬を気が済むまでつねると、可愛くないもんイケメンの馬鹿と罵声を浴びせた。






「ねえねえ、ひいおばあちゃんにさんっている?」「私に飽き足らずひいおばあちゃんにまで鼻の下伸ばす円堂くんなんか嫌い」(そっくりだなあ、豪炎寺さん・・・)






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