01.どうしていつかを夢にみるんだろう




 恋とはとても思えなかったが、一般的には恋愛に分類されるであろう恋が終わった。
こちらとしてはそれなりに努力したのだが、一度生まれたわずかな行き違いによる溝は埋めることができないまま広がり深くなり、そして今日のさようならに至った。
女の子のわがままは構ってほしいという合図なのに、そこを理解せずにただ単純に面倒臭いと思った奴の狭量さが今回の破局の主たる原因だと思う。
わがまま1つ聞いてくれないとは、彼はきっとこれからどんな女の子と付き合っても長続きはしないだろう。
は終わった恋に未練なく別れを告げると、携帯電話のアドレス帳から躊躇うことなく元彼のデータを消去し歩き出した。
声すら聞かない、ちょっと反対側に反り返せばすぐに壊れてしまう脆く薄っぺらい電話の画面上に映し出された『別れよう』の文面だけで彼との関係はすぐに終わる。
男との関係なんて携帯電話と同じくらい薄っぺらで、脆くて壊れやすいものだ。
長続きさせるように、次はあえて古風に面と向かって話すべきかもしれない。
しないだろうけど、そんな面倒で億劫でむやみにダメージリスク背負い込むようなこと誰も。
は小さく笑うと電話を鞄に仕舞った。
帰宅ラッシュにはまだ早い時間の駅は人寂しく、こんな時間になぜここにいるのだろうかと疑問に思ってしまうような連中がたむろしている。
たまには独り歩きしている時もナンパの1つや2つされて見ないかと思うが、今日は究極のナンパ連中寄せパンダである友人を連れていないので誰も寄ってこない。
男なんて所詮は見た目でしか判断しない薄情で短絡的で単純な単細胞の塊だ。
そこそこ可愛い子と超可愛い子がいれば、たとえそこそこ可愛い子がそこそこ可愛かろうと見向きもしない。
かつてよくつるんでいた友人が超がつくほどに見た目だけは可愛かったは、心理学者よりも冷徹かつ残酷に夢のない男性観を持っていた。






「あるいは、ナンパするだけの勇気もない腑抜けばっかり、とか」




 きっとそうだ、そうに違いない。
確かにこちらはそこそこの可愛さレベルに留まっているが、スタイルは他の同年代の女の子と比べてもサイズが違うし、おしゃれにも時間とお金をかけている。
男を喜ばせる言葉や仕草だって経験は豊富だからそこらの女の子よりも自信はあるし、すべてを見た目で判断するなと声を大にして言いたい。
あんたが今ナンパしているお嬢様女子校の女の子よりも、こちらの方がきっと楽しい時間を過ごせる。
見る目がない男ばっかりでやだやだみっともない。
わざと挑発交じりに零した言葉が、昼下がりの人気のない駅に響き渡る。
ああ、なんだと?
不良ヤンキーのテンプレートのような視線と顔つきとドスの利いた声を浴びせられ、はにいと口角を上げた。





「もう一回言ってほしいの? あなたのその目は節穴ですか?」
「ああ? てめえ何様のつもりだ!」
「そっち頃真昼間っから女の子引っかけて楽しい? ちゃらっちゃらした髪と服してうざったいのよ」
「てめえ!」





 こいつもやはり、女の子の可愛い戯言を笑って許せない狭量な男だ。
男ならばもっと堂々と構えればいいのにみっともない。
は不良とじろりと睨み上げるとガンをくれた。





「てめえそこそこ可愛いからって下手に出ればぺらぺらと・・・!」
「下手に? いつ出たのよ、言葉の意味も知らずに使ってんじゃないわよ」





 売られた喧嘩は買うし、売りたい喧嘩は相手が買うまで食い下がる。
単細胞の塊の最たる存在不良が単細胞らしく手を振り上げる。
こういうところでかっこよく乱入し、さっそうと攫っていく身も心もイケメンな王子様はいないものか。
現れるはずもない援軍を早々に諦め戦闘態勢に入ったの前に、稲妻マークの鞄を盾にした少年が突っ込んできた。




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