05.赤い糸で繋いで




 親友に嫉妬しているのではない。
嫉妬したところで自分は彼女には及ばないとわかっているから、妬こうとも思わない。
あれは規格外なのだ。
は戸惑いの表情を浮かべている半田に向けふっと笑みを零すと、もう一度念を押すように無理だよと告げた。




「半田くんはあの子が好きなんでしょ」
「嫌いな奴とつるむほど世渡り上手じゃないぜ、俺は」
「親友のあの子が好きだけど、そうじゃないあの子のことも好きなんでしょ」
「何だよ、何言いた「もっとはっきり言ってほしい? 半田くん、あの子に恋してる」





 だから男として見てほしかったんでしょと尋ねると、半田が押し黙り顔を伏せる。
言ってしまった。
言わなければ半田はその想いに気付かずこちらも恋のアタックを続けられたというのに、半田のことが好きだから言ってしまった。
男に尽くして身を滅ぼすなどみっともない。
は額を押さえた半田をじっと見つめ、半田の出方を窺った。





「気付いてたんじゃなくて、無意識に気付かないようにしてたんでしょ。半田くん優しいから」
「・・・なあ。お前、俺のこと好きか?」
「うん、好き。半田くんのことが大好きだから、半田くんがもやもや悩んでるの見たくなくて私失恋コース選んだくらい」
「俺もと一緒だったのかな・・・」
「そうなの?」
「そうだよ。だって俺、たぶんあいつのこと好きなんだよ。毎日散々振り回されてきたけど、それでも俺あいつといるのすげぇ楽しかったもん。だから今はすげぇ寂しい」
「いきなりいなくなるの、あの子の得意技だから。木戸川からも、あの豪炎寺くんにも何も言わずに出て行ったんだよ?」
「あいつらしいな。俺はあいつが好きだ。だから俺は、あいつが親友がいいって言ったし俺もそれは嬉しかったから親友になったんだ。でも俺もやっぱ人間だな、あいつに違うの求めてた」
「半田くん優しすぎるんだよ。いつも振り回されてるお返しに告白してくれば良かったのに」
「びっくりさせることすらさせたくなかったくらいに惚れてたのかな、ひょっとして。・・・あーあ、俺ら失恋組だよ」





 すべてが終わったとばかりに顔を上げ、空を見上げからりと乾いた笑みを浮かべる半田の横顔はかっこいい。
特別きらきらと輝いてはいないが、独占しようと思えばいつでもできるフツメンの横顔だ。
優しい半田は諦めも早いようだが、見つけた獲物を逃したくないこちらはまだまだ手を引くつもりはない。
一度の失恋が何だ。
半田が失恋のショックで打ちひしがれている今こそ、心の穴に入り込むチャンスだ。
は半田との距離をぐっと詰めると、天を仰ぐ半田の顔の上に覆い被さった。
急に光が遮られ、突如覆い被さってきたの顔の向こう側から覗く光と影のコントラストに目を細める。
半田くんとおどけた声で呼んでいるの顔は強がっているつもりなのかもしれないが、少しだけ寂しそうに歪んでいる。
ああそっか、は俺のために俺に振られたんだっけ。
こいつも変わった奴だな。
これだけの押しの強さがあればもっと他のいい男だって物にできただろうに、なんだって俺だったんだろう。
変わり者で、でも好きな人思いなすごく優しい奴だ。





「半田くん」
「ん? あ、そういやってさ・・・」
「あのね半田くん、私まだ失恋決定とは思ってないから。だからまだまだ半田くんに明日、いや、今からアタック再開するね」
「ほんと好きだなあ、さんは俺のこと」
「もちろん・・・っていうかえ!? え、今半田くん何て!?」
って言うんだろ? ごめんな、メル友なのに俺のこと何も知らなかったよ。どうする? 失恋組同志傷舐め合うために名前で呼び合ってみるか?」
「真一くん真一くん! ねえ真一くん、子供の名前はやっぱり足して2で割りたい!?」
「いや、気早すぎだろ」





 なんで失恋組が子どもの名前話し合うんだよ。
半田はおかしさからか寂しさからか、はたまた失恋の痛みからか目尻に浮かんだ涙を乱暴に拭うとにいと笑った。






「てなことがあってさー」「半田なんでライオコット来てまで惚気話してんの?」






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