04.きみにしろい、嘘を吐く




 彼の用とやらは終わったのだろうか。
は半田が遠ざかった日以来送るのをやめた携帯電話のメール送信ボックスを見やり、ぱたりと机に突っ伏した。
こちらから送らない以上、半田がコンタクトを取ってくることはない。
半田は、自ら進んでこちらと関係を持とうとは考えていない。
半田はたとえそれが友情であれ愛情であれ、イタリアへ帰ってしまった彼女を一番に想っているのだ。
筒抜けとまではいかないが、彼女はこちらに半田との出来事を話してくれる。
いい男と思われたがっていたという話を聞いた時、は思わずやっぱりと言ってしまった。
性差の関係ない親友でいたいと願う者が、『いい奴』よりも『いい男』でありたい、そう思ってほしいとは考えない。
『いい奴』ではなく、『いい女』だともきっと思わない。
半田は、自分では気付いていないのかもしれないが彼女のことを少なからず想い慕っているのだ。
愛してるや付き合いたいといったわかりやすく表面的なところではなくて、もっと心の奥深くで親友のことを本当に大切に想っているのだ。
このままずっと、半田には気付いてほしくない。
しかし、半田はこれに気付き何らかの形での終着点を見つけなければ、親友への友情ではない説明しがたい感情に心を囚われ次へ進むことができなくなる。
彼女への想いに気付いた半田は、こちらのことなど今以上に顧みなくなる。
それは即ち失恋だ。
親友も半田も自身も、誰も満たされる思いにはならない結末を迎えることになってしまう。
どうすればいいのだろう。
気付かせないままやり過ごすのが自分にとっての幸せなのか、あるいは気付かせてやることが半田の幸せではないにしろ事実を受け入れるという点では望ましいことなのか、
は苦悩の呻き声を上げた。
呻き声に反応したのか、携帯がぶるぶると震える。
メール受信の知らせに送信者を見たは、慌ててメールを開いた。





「・・・ああそっか、帰ったから用済んだんだ」





 しばらくごめんと律儀に送られてきた謝罪のメールに、思わず頬を緩める。
やはり半田はとても優しい。
優しいから、無意識のうちに大切な人が困るような事態を避けようとしたのかもしれない。
気にしなくてもいいよと以前のハート乱舞のメールと比べて明らかに素っ気ない内容を返信すれば、5分と経たずに再び着信を知らせる音が鳴る。
メール不精だった半田が変わった。
は話があると切り出されたメールにわかったとこれまた素っ気なく返事を返すと、クローゼットを開いた。
愛しの王子様に会えて、しかも王子から直々にデートの誘いがあったというのに気分は晴れない。
半田に飽きたのではない。
切り出される話になんとなくの予想がついて、そしてそれはあまりいい内容ではないとわかっているから気が乗らないのだ。
は呼び出された公園に向かうと、ぽつりとベンチに座っていた半田から一人分空けて腰を下ろした。






「久し振りだね半田くん」
「うん。こないだはごめんな、急にいなくなってそれから後も」
「いいよ。・・・お見送りしてきた帰り?」
「やっぱ知ってたのか。・・・なあ、変なこと訊いていいかな」





 いいよとだけ返すと、半田がじっとこちらを見つめる。
どきどきするはずなのに、今日はいやに冷めている。
何を言われても驚くまい。
妙な落ち着きを見せるに向かって、半田は真剣な表情で口を開いた。





「俺ってさ、・・・そんなにあいつには男としては大したことないって思われてたのかな。でもっては、ほんとに俺のこと、その、好き、なのか?」





 いい奴じゃなくていい男になりたかったんだよと続ける半田に、はうっすらと口元に笑みを刷き無理だよと言い放った。




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