01.君を巡る




 半ば強引に手に入れたメールアドレスに宛て、ハートと星が入り乱れるメールを送る。
向こうから送ってくれることはないがまめな性格なのか、送られたメールには時間差こそあれ味気ない返信が来る。
例えば朝、『おはよう半田くん今日はまるで初めて半田くんに会った日みたいに気持ちいい朝だね』と送ると、『に会ったのは夕方だよ』と的確なツッコミメールが返ってくる。
さすがは半田だ、目敏くてそこもまたいい。
は返ってきたメールを保護付きにして専用フォルダという名の宝箱に移すと、携帯を胸に抱きはぁんと悩ましげな息を吐いた。
夕暮れの王子が半田と知り彼と一方的にコンタクトを取るようになってから、毎日が楽しくて仕方がない。
宇宙人に倒され入院していた間に他の女を作っていたような軟派男と違い、もてない半田には女の心配をする必要がない。
周囲が半田の魅力に気付く前に唾をつけておいて良かった。
はホームルームが終わると同時に木戸川清修中学校を走り出ると、雷門中学校行きのバスに飛び乗った。
半田に会いに行くための出費は少し痛いが、半田と会う前にこっそり稼いでいた親父どもからの貢ぎ金があるからそれを取り崩せば問題ない。
は今や半田の出待ちスポットと化した校門前のカーブミラー前に立つと、何のオーラも発してない茶髪の少年を探すべく目を凝らした。





「あっ、半田くん!」
「・・・よう」





 大きく両手を振ると、半田が小さく片手を上げる。
そこそこ可愛い女の子から呼ばれることに慣れていなくて恥ずかしいのか、ちらちらと周囲を見回しながら半田が歩み寄る。
のこのこやって来たターゲットを捕捉しぴたりと体を寄せたは、自慢の上目遣いで妙に浮き足立っている半田を見上げた。




「半田くんどうしたの? いつも以上に素っ気ないけど、もしかして今更私に照れてる?」
「いや、そうじゃないけど・・・」
「じゃあ何? ねぇ半田くん、私今日ね・・・」
「悪い、俺ちょっと用あるわ」





 今日どころかしばらく用あるから。
顔をこちらに向けることなく言い残し足早に去って行った半田の向かう先へと視線を巡らす。
・・・ああ、あの子には勝てないわ。
色んな意味であの子には勝てる気がしないわ。
は笑顔で目的の人物に駆け寄る半田と、それをこれまた笑顔で迎えた親友雷門フレンドからふいと背を向けた。




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