02.ひとりで寂しいすごく寂しい




 今頃、愛しの王子様は麗しのじゃじゃ馬姫様との帰り道を楽しんでいるのだろうか。
好きな物や嫌いなものが合致することはなかったけれど、たまたま互いの性格が変なところでさっぱりしていたことから仲良くなった木戸川清修の触れぬ花。
触れようものならその者の指や口は焼けただれ、二度と近付くことができなくなるという都市伝説ならぬ学校伝説までも生み出した、業火の中にだけ咲くとびきり太くて鋭い棘がある薔薇の花。
花は雷門へ移り、棘も炎も幾分か威力を落としたようだ。
どうせならもうちょっと豪炎寺くんガード固いまんまでいれば良かったのに。
は半田を友人独特のフェロモンだか餌だかでおびき寄せた友を思い、小さく笑みを零した。
学校が変わっても仲良くしてくれていた彼女は、近いうちに雷門を去る。
地中海が生んだラテンなイケメンがたくさんいるイタリアに帰るのと冗談めいて言われた当初こそ向こうのイケメン紹介してよと冗談で返したが、言葉が嘘でないと知った今は寂しさでいっぱいだ。
木戸川と雷門ならばともかく、日本とイタリアはパスポートがなければ会いに行けない。
元々生まれたのもイタリアで場合によってはそのままイタリア人になると豪語するほどに日本に未練のない友人は、一度去れば日本にはそう戻って来ないだろう。
彼女にとって日本は『戻る』地ではなく、改めて『行く』土地にすぎないからだ。





「半田くんも知ってて、だからああ言ったんだろうなー」・・・」




 こちらにとって親友の彼女は、半田にとっても大切な親友だ。
少なくとも向こうは半田のことを親友だと思っている。
しかし、半田はどうなのだろうか。
半田は本当にあの子のことをただの女友だち、親友だと思っているのだろうか。
親友を、あんなにも何かを求め焦がれるような熱い視線で見つめるだろうか。
別れた後に半田が見せた笑顔は、オーラのない半田のくせにとてもキラキラと輝いていた。
魅せられ、見せつけられた気がした。
どんなにお前が俺にすり寄っても、俺はお前なんかには構ってやんないよと満面の笑みの裏で残酷な現実を突きつけられた気分になった。
見ず知らずの無鉄砲な女の子を背中を押されたからとはいえ助けてくれた半田はきっと、いや、絶対にこんなことは考えない。
半田は、こちらの一方的でやや押しつけがましい愛情表現にも苦笑いひとつで受け止めてくれる優しい男だ。
だから、これらはすべて心配性で想像力逞しいこちらの思い込みにすぎない。
ねえ半田くん、私、半田くんが近くにいないとこんなに不安になっちゃうくらいに手遅れな女なの。
は隣を歩く人がいない独りきりの帰り道で、寂しいと呟いた。




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