Another 63.造反のチルドレン










 豪炎寺に発破をかけるために日本エリアに戻ったはずのが、なぜここにいる。
円堂はフィディオの隣にぴたりと張りついている友の姿に、思いきり奇妙な表情を浮かべていた。
10年間連れ添った幼なじみよりも、出会って数週間の異国人の方がいいのか。
そりゃあフィディオは豪炎寺よりもには優しいし豪炎寺とは違うタイプのFWだし豪炎寺と同じくらいかっこいいけどさ、ちょっとって移り気すぎやしないか。
目は口ほどに物を言っていたのか、がフィディオの隣からこちらへとつかつかと歩み寄りつんと額をつつく。
しっかたないじゃん1人でいると危ないんだからと声を上げるに、円堂は首を傾げた。




「なんで危ないんだ?」
「今のイタリアエリア、空から何降ってくるかわかったもんじゃないでしょ。修也んとこに帰る前何か降って来たらどうすんのっていうか、もう降ってきたし」
に? それって、近くにいたフィディオとかを狙ったんじゃ・・・」
「円堂くん相手を誰だと思ってんの? あのロリコングラサン親父よ、あの! そういう親父にとって私みたいな可愛い子ってただのご馳走なんでしょ」
「えっ、うーん・・・、そうなのか、鬼道」
「ご馳走かデザートかはわからないが、無事に帰れる保証がないなら俺たちのところにいた方が安全だろう」
「はっ、言ってる本人が一番がっついてんじゃねぇの、鬼道クン?」
「なんだと?」




 イタリアエリアには、植木鉢や木材の他に雷も落ちるらしい。
は鬼道と不動の周囲で轟く雷が見えたような気分になり、フィディオの背にそろりと隠れた。
個性派揃いのオルフェウスをまとめているだけあって、フィディオは空間把握能力が高い。
トラブルも丸く収めようとするし、すぐにぶつかっては火花を散らす当たり屋不動よりもうんと大人びている。
フィディオはに向き直ると、を安心させるべく頬を緩めた。




「今のここはちゃんにとっては危なくて早く逃げた方がいい場所かもしれないけど、ちゃんがここにいる間は俺にちゃんを守らせて。ちゃんにはもう、指一本触れさせない」
「やだ、フィーくんってば王子様みたい」
「それは嬉しいな。ちゃんに守ってもらうのは後にも先にもあれっきりにする。大切にしたいんだ、ちゃんを」
「あ、あの、うん、ありがと・・・」




 まだ捻った腕のことを気にかけているのか、フィディオが痛む方の手をそっと取り手の甲に口づける。
恥ずかしい。
本物のお姫様になったようで、フィディオに触れられたところからじんと熱くなる。
私今、どんな顔してるんだろ。
顔がものすごく熱いからきっと今の私の顔、トマトみたいに真っ赤なんだろうな。
綺麗に微笑むフィディオを直視することができず顔を伏せたの耳に、怪我をしても陽気なラテン系サッカー少年たちの冷やかしの声や口笛の音が飛び込んできた。


































 フィディオは守ってくれると言ってくれたが、真に守るべきなのはこちらではなくてイタリア代表の地位だ。
はオルフェウスベンチに腰かけ、フィディオたちオルフェウスイレブンとミスターK率いるチームKイレブンを眺めていた。
昨日初めて見た時も驚いたが、チームKのキャプテンは鬼道にそっくりだ。
ミスターKは確実に影山だ。
影山はまだ鬼道を諦めておらず、彼を自身が作り出した最高の作品だと思っている。
影山のその考えが鬼道をどれだけ苦しめているか、影山はわかって言っているのだろう。
誰だって憎い相手に作品と呼ばれ、かつ執着されていると腹が立つし調子が狂う。
はチームKのキャプテンデモーニオに明らかに動揺している鬼道へと視線を移した。
ゴーグルのせいで彼の表情のすべてを窺い知ることはできないが、おそらく相当戸惑い、そして怒っているに違いない。
彼に傍に行ってもいいのかわからない。
傍に行ったとしても、どう話しかければいいかわからない。
鬼道は自分で考えることができる人だ。
自分の考えを自分の言葉ではっきりと伝えることができるし、彼の考えは常に理にかなっている。
だから、鬼道にはつけ入る隙がない。
本当は強引にでも彼の心の隙間に入り込んで影山ずくめの思考をかき回したいのだが、それができるほど鬼道のことを知らない。
もっと鬼道のことを知っていれば、彼の心を軽くすることができるのだろうか。
鬼道はそれを望んでいるのだろうか。
結局何もできないまま鬼道を見つめていると、視線に気付いたのか鬼道がくるりと体をこちらに向ける。
試合直前にもかかわらずベンチに戻ってくる鬼道を出迎えるべく、は腰を上げた。
とやや掠れた声で名を呼ばれ、いつもと変わらぬ声音でなぁにと返す。




「デモーニオを見たか?」
「鬼道くんの方がかっこいいから大丈夫だよ」
「影山に利用されているだけに過ぎない哀れな奴だ・・・と笑い飛ばすことができない。・・・俺も昔はああ見えていたか?」
「さあ? だって私、鬼道くんがオニミチくんだった頃は修也しか見てなかったから」
「ふっ、そうだったな。・・・、頼みがある。にしか頼めない」
「うん」
「俺を見ていてくれ。試合中俺に何があったとしても、見えたままでいいから俺を見ていてくれ。・・・見捨て、ないでくれ」
「ねえ鬼道くん、私、なんであっきーにいつもいってらっしゃいって言ってるか知ってる?」
「いいや、わからない」
「おかえりって言うためだよ。また帰って来てほしいからいってらっしゃいって言ってるの。いってらっしゃい、鬼道くん」




 鬼道くんには特別、2つともやってあげよう。
いってらっしゃいの言葉と共にぽんと背中を叩かれ、フィールドへと送り出される。
ちゃんと帰って来てね、帰って来なかったら連れ戻しに行くから。
頼もしく勇ましい女神の激励を全身に受け、鬼道は戦場へと足を踏み入れた。







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