影山は最後まで影山だった。
鬼道はオルフェウスキャラバン車内で、影山の周到で姑息な策略を思い出し唇を噛んでいた。
イナズマジャパン対アルゼンチン代表ジ・エンパイアの試合を今日に変更させているとは思いもしなかった。
影山には、大会を動かすことができる大きな組織が背後についている。
影山だけが仕組んだ罠ではなく、見えない何かに操られ踊らされていた。
今はとにかく試合に間に合ってほしいと逸る気持ちを抑え窓の外を眺めていると、バスの最前列に座り携帯電話を弄っていたがええーっと声を上げる。
どうしたんだよと尋ねた不動には座席から身を乗り出し振り返ると、右手に持つ携帯電話をぶんぶんと振った。




「かくかくしかじか秋ちゃんとか修也に言おうと思ったら、電池なくなっちゃったー!」
「何に携帯使ってたんだよ!」
「修也からの不在着信? あ、いや、違うやだってこれ昨日から充電してないしそもそもここ海外だからもー!」
「幼なじみクンから着信あった時に返事しとけよ! ちゃんほんと幼なじみクンに冷たすぎだろ、何それわざと?」
「ばっかねえ、修也に下手なこと吹きこんだら修也すーぐ不安がって落ち込み鬼道くん以上に使い物にならなくなるの。
 それを見越してあえて連絡しなかった私の読みの深さをあっきーわかんないわけ?」
「返事ない方がもっと不安になるだろ。ちゃん携帯の使い方下手すぎ・・・」




 なぁにその言い方イラッとしたと不動を詰るの携帯電話につけられたストラップがゆらゆらと揺れる。
フィディオは揺れるストラップから目を離すことができなかった。
似ている。
ストラップではなかったが、根付がとてもよく似ている。
今すぐ電話を取り上げて自身のネックレスと並べて見たくてたまらない。
フィディオはにストラップを借りるべく口を開きかけた。
ちゃんと呼びかける直前、バスが急ブレーキをかけ危うく舌を噛みかける。





「あいたたたたた・・・」
「大丈夫ちゃん。シートベルトはちゃんとしてね」
「はぁい・・・。えっ、何今のブレーキ」
「まずいな、この先で事故があったみたいで交通規制がかかってる」
「うっそマジで? えー、抜け道とかないの?」
「ここは一本道なんだ。戻るにしてもここからじゃ船には間に合わない」





 えーえーと困惑の声を上げていると、肩にぽんと手を置かれ嫌な予感がして思わず手の主を見上げる。
走るから走ってくれ。
少しだけ予想していた鬼道の言葉に嫌と言えるわけがなく、はいと答える。
無理だ、サッカー選手の脚力についていけないことは数か月前に判明している。
いっそ置いて行ってくれと言いたいがすべてが仕組まれているとわかった今、自分を置き去りにすることを鬼道や不動、フィディオが許すはずがない。
こんな事が起こるのであれば、風丸から分身ディフェンスだけでなく疾風ダッシュも教わっておくべきだった。
は不安いっぱいでバスから降りると、スニーカーでもなんでもないただのローファーの足元を見下ろしはあと息を吐いた。




「あのさあ、いざとならなくてもほんと置いてって」
「そんなことできるわけないだろう。も一緒に行くんだ」
「私いなくても試合できるじゃーん。お荷物やー」
もイナズマジャパンの一員だ、行くぞ!」
「あぁんもう既に置き去りじゃーん!」





 スタートダッシュから歩幅から既に出遅れ格の違いを見せつけられ、先を急ぐ円堂たちにみるみる差をつけられる。
5人との距離は開くばかりで、1人でジョギングしているのと変わらない状況だ。
さすがは日々走り込みをしている円堂たちだ、少しほっとした。
姿が見えなくなっても歩くわけにはいかず自分なりの全力で走っていると、石に躓きべたりとこける。
だから運動はしたくないのだ。
こけた膝は痛いし立ち上がろうとしても腕は上手く力が入らないし、いつまでもアスファルトとごろ寝したくないのに起き上がるのもかったるくなってくる。
こけ方が派手だったのかポケットの電話も道路に転がり、またしてもストラップに傷を増やしてしまったかもしれない。
やっぱストラップにしたのがまずかったかなあ。
私もフィーくんみたくネックレスにしよっかなあ。
のろのろと起き上がり服についた砂を払い落としていると、携帯電話に誰かの手が伸び視界から消える。
大丈夫と柔らかな声音で尋ねられ顔を覗き込んできたイケている面構えに、はぎゅうと抱きついた。





「ごめんねちゃん、知らないところに置いてけぼりにしてごめんね!」
「置いてけぼりは覚悟してたけどこけるの考えてなかったからびっくりしたー・・・」
「痛くない? 大丈夫?」
「痛い。あ、円堂くんたちは?」
「守たちは先を走ってて俺だけ戻って来たんだ。俺は間に合わなくてもいいし、ちゃんを守るって約束したから。でも守れなかったね・・・」
「石ころは仕方ないよ、爆弾じゃあるまいし。ありがとフィーくん、独りぼっち寂しかったからフィーくん来てくれて嬉しい」
「良かった。・・・ところでちゃん、この携帯っていうかこのストラップなんだけど」





 ちゃんは誰なんだい?
体を離すなり尋ねてきたフィディオの祈るような真っ直ぐな瞳に、は耐えきれず眼を伏せた。






こっちのルートだと、ダーリンダービーがもっと白熱していた(かもしれない)






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