ペンギンに究極も未完成もないと思うのだが、年頃の男の子という者は究極や最強といういかにも強そうなフレーズに憧れるきらいがあるから深く考えない方がいいのだろう。
と、ヒーロー願望を持たない乙女はあっさりと割り切ることができるが、ヒーローになれるかもしれない男の子にはショックだったのだろう。
は不動の発破により一度は立ち直したものの、究極のペンギン技皇帝ペンギンＸにより失点を許し再び調子を崩した鬼道を不安げに見つめていた。
鬼道と影山の因縁はよほど深いらしく、影山が少し笑うだけで鬼道は苦悶の表情を浮かべる。
影山に翻弄され続けている鬼道がまっとうな指揮を執れるわけがなく、苛立った不動が代わりに指揮を執ろうとしてもオルフェウスは混乱するばかりで動けない。
試合開始時と変わらないちぐはぐなプレイはチームＫを勢いづかせ、デモーニオはフィディオまでもあっさりと抜き去り円堂が守るゴールへと肉薄する。
ある程度統率の取れているチームを指揮することくらいはこちらにもできるが、完全なる点となってしまった散り散りのチームに新たなフォーメーションを与え、
指揮することができるほど自身の采配に自信はない。
不動の指示にも対応しきれない混乱したチームを、ベンチで見ているだけのこちらがどうこうできるわけがない。
はデモーニオの皇帝ペンギンＸを怒りの鉄槌と真熱血パンチを地面に叩きつけることにより阻止した円堂にほうと安堵の息を漏らすと、唯一言うことを聞きそうな円堂に向かって声を上げた。





「そのまま上がって、どんどん行って円堂くん！」
「え、でも・・・！」
「いいから！　大丈夫、鬼道くんあっきーフィーくんたちいるんだからボール取られるわけないじゃない。前行かないと進めないんだったら行くしかないでしょ！」





　相変わらず支離滅裂な無理難題ばかり押しつけてくるだ、またカウンターに遭ったらどうするというのだ。
円堂は無人のゴールを一瞬思い、すぐに前へと走り出した。
はチームを信じているから前へ出ろと言った。
信頼には全力をもって応えるのが選手だ。
円堂は未だに動きが鈍いどころか止まっている鬼道へとボールを蹴った。
は、今はまるで使い物にならない鬼道のことも信じている。
だけではなく、もちろんこちらも天才ゲームメーカー鬼道を信じている。
影山の手を借りずとも多くの困難を類稀なゲームメークで打ち破り、短時間に強力な必殺タクティクスを編み出してきたイナズマジャパン随一の司令塔にして親友を信じている。
影山のことで悩んでるお前もいいけど、俺は、いつもみたいに自信たっぷりにマント翻してゲームメークして走り回ってるお前のことも大好きだ。
円堂の叫びと共に蹴り出されたパスが鬼道へと迫る。
鬼道の心の中の鬼道と影山しか存在しなかった暗く冷ややかな世界に、光が差しこむ亀裂が走った。




「俺は・・・、俺はもう、あなたのものじゃない！」




　円堂のパスを受けた鬼道がフィディオにパスを繋ぎ、崩壊していたフォーメーションを素早く立て直すべく矢継ぎ早に指示を出す。
鬼道がいるからもう、後ろを不安がる必要はない。
思いきりチームＫゴールに突進した円堂は、フィディオからの絶妙なキラーパスに合わせ頭でボールをゴールに叩き込んだ。
































　世界で一番くらいにすごい選手になりたいとはずっと夢見ている。
だが、世界で一番くらいにすごい選手が即ち究極のサッカー選手ではないと思っている。
世界一の選手のなるのは並々ならぬ努力をしなければならないし、いつまでも世界一でいたいのであれば、他の選手に抜かれることがないように成長し続けなければならない。
幼い頃から世界で一番くらいにすごい選手になりたくて、ずっと毎日練習してきた。
練習の結果、オルフェウスイレブンの一員に加わりスタメンを獲得し、白い流星というむず痒くなるような異名まで手に入れた。
フットボールフロンティアインターナショナルではもちろん優勝したいが、ゴールはそこではない。
ゴールなど初めから、死ぬまでないのだと思う。
この大会で優勝しもしもＭＶＰをもらったら、次はユースで一番の活躍を見せたくなる。
ユースが終われた次はシニアリーグ、そしてワールドカップを経てバロンドールを受賞する。
バロンドールに選ばれてもゴールはそこではなく、体が動きサッカー選手である限り常に最高のプレイをしようと日々努力するだろう。
もう自分は完璧だ、誰にも負けない究極で最強の選手だと思ったら成長はそこで終わってしまう。
誰もが憧れる究極は、誰もなることができないからいついつまでも憧れの対象にあるのだ。
フィディオは究極にこだわるあまり周囲の進化に戸惑い認めることができないデモーニオを説教ついでに抜き去ると、前方を走る鬼道たちの背中を見つめた。
鬼道と不動が幾度か試している新必殺技とやらは、未だに完成の見込みがない。
オルフェウスは試合に勝たなければ、もうオルフェウスとしてプレイすることができなくなる。
本戦と同じくらい、もしかしたらそれ以上に負けられない大切な試合なのだ。
確実に勝たなければならない試合だから、できるかどうかわからない鬼道たちのシュートに賭けずオーディンソードで蹴りをつけた方がいいかもしれない。
だが、勝ちたいが鬼道たちのことも信じたい。
影山との因縁を断つために編み出したと言われる必殺技を見てみたい。
そうした方が鬼道や不動、佐久間たちはもっと強く戦いがいのある選手に成長する気がする。





「あー、わかったー！」




　前線へ駆け上がっていると、オルフェウスベンチからの嬉しげな声が飛んでくる。
の声はとても弾んでいて、何がわかったのか気になって仕方がない。
フィディオはからフィーくんと呼びかけられ、内容を聞く前に鬼道へとパスを送った。
今日のは鬼道たちをよく見ている。
がわかったと叫んだのも、鬼道たちのプレイについてだろう。
は気付いていないだろうが、こちらはをずっと見ているのだ。
がどこを見て何を考えているのかまったくわからないほど盲目していない。
恋と現実は別物なのだ。
恋に浮かされ見るべきものが見えなくなるような視野の狭い男にはなりたくないし、なる気もなかった。




「まったく、ちゃんには敵わないな・・・。守る必要がないくらいに強くて、目が離せないや」




　今まで成功していなかった鬼道と不動の必殺技に佐久間が加わり、高く飛び上がる。
空飛ぶペンギンなんて確かに、ペンギンが泳ぎもできる鳥類だって原点に返らないと思いつかないこれこそ見た目ばかりに気を取られた盲点だったなあ。
フィディオは悠然と空を舞った直後、矢のようにゴールに突き刺さった新必殺技皇帝ペンギン３号に笑みを浮かべた。







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