1日の内に婚約者のいる者が1人から3人へと増えたクルーゼ隊赤服メンバーズ。
こんな生活が平和に行われるはずが・・・なかった。














Step:03  破談宣言されました
            ~売られた破談話は買います~












 今までもあまり仲が良かった訳ではないクルーゼ隊のエリートパイロット達だが、
新入隊員、が加入した事でさらにイザークのアスランに対する嫌悪度が増した事は誰の目から見ても明らかだった。
イザークは事あるごとに、何かとアスランに突っかかり、それをたしなめようとするディアッカが1番の被害を被る。
そしてその横ではとニコルが彼らの行動を微笑ましく、半ば呆れたように眺めている。
そんな日が何日か過ぎていった。
嵐のようだった初日の強烈な出会い以来、イザークとは必要最低限しか口を利いていなかった。
婚約者という迷惑極まりない肩書きが2人の溝をさらに深めているのである。
アスラン達にしてみても、こればっかりはどうしようもない。
状況は日に日に悪くなる一方であった。













 いっその事、が優秀でなければ良かった、と最近のイザークは思う時がある。
仮に婚約者がパイロットだったとしても、自分よりも数段能力の劣る相手ならば、こんなにまでムキになって口を利かなかったり、
というような幼稚な反抗をする事もなかったのだ。
だが現実は、はアスランまでとはいかないが、かなり優れたパイロットで、
実際の小規模な小競り合いの時なども、愛機のリヴァイヴを駆って活躍している。
それがイザークのプライドをまた刺激するのだ。
相手がどんなに気の強い少女であろうと、結果的に自分の方が確実に優れていればまだ良かったのだ。
イザークはこの時はまだ、自分のこんな考えが勝手であるとわかるはずがなかった。
だから、この今の最悪な状況を打破するための会心の作戦を練ることにしたのである。
そしてその日は意外に早くやって来た。











 「おい、貴様。」
「どなたの事でしょう?」
「だから貴様の・・・!!」







意地なのか癖なのか、イザークは1度もの事を名前で呼んだことがなかった。
貴様呼ばわりされるいわれなどないと思っているが頑なになるのも当然である。






「言わんでもわかるだろうがぁっ!!
 貴様の事だ!!」
「だからなんで私があなたに貴様呼ばわりされないといけないのよ!!
 私にはって言うちゃんとした名前があるのよっ!!」







埒の明かない、まるで幼稚な喧嘩に毎日毎日悩まされているアスラン達も気の毒だが、
その中で最もとばっちりを受けているのはやはりイザークと同室のディアッカだろう。
とにかく最近のイザークはかつてなく荒れに荒れていた。
特にひどいのが今日のようにと喧嘩した挙句、アスランにまた負けた日である。
そしてディアッカも彼を放っておけばいいものを、この間だってと喧嘩したイザークに、






「お前もって言うけどさぁ、あんな子滅多にいないと思うけど。
 まぁ、性格は少し気が強いけどさ、は軍人だしそのくらいあったほうが・・・。」
「貴様は黙ってろ、ディアッカ。
 俺の前であいつの話をするな。殺すぞ。」



と余計な事を言ったばっかりに危うくその短い生涯を閉じかねんとしたばかりなのだ。
イザークにしても、彼にしても懲りない連中である。



















 一方、今1人の婚約者、も困り果てていた。
困って困って困りすぎて、結局は毎日毎日に多様な展開を繰り広げてしまうのである。
別に喧嘩をしたくてこの隊にいるわけでもないし、
貴様呼ばわりをされるためにイザークの前にいる訳でもないのに、彼の顔を見たら無性に警戒心が働くのだ。
こんな彼女の症状の原因の全てがイザークとのファーストコンタクトにあることなど彼女は知らない。
ただ生理的にあまり好きではないのだろう、とさらに悪く考えてしまうのだから、状況が良くなるわけが無いのである。
とにかく、これ以上いい方法を見つけ出せずにいたは物にも人にも当たらない、
アスランに相談してみることにした。
彼はの従妹にして幼馴染、自分の性格をよく把握しているだろうし、
何より彼もまた、ラクス・クラインというアイドルを婚約者に持つ身なのだから、きっと何か良い案を出してくれるだろう。
そう思いこの日はアスランの部屋に行ってみた。が、








「アスラ・・・、・・・何、これ・・・。」
「あぁ。どうした・・・?
 これか? 今ハロを作ってるんだ。」
「ハロってあの・・・、ラクスの家で無駄にたくさん跳ねてるあれ?」






室内のアスランの領域は見事に機械の部品やら色とりどりの塗料やらであふれていた。
その中に埋もれてアスランは恍惚とした表情を浮かべながら、せっせとハロ作りに励んでいた。
とてもの、深刻な話を聞いてくれそうにない。






「今度はのを作ってるんだ。
 色はね・・・。」
「あ、そう。もういい。」







こんな状態のアスランに意見を求めたとしても、きっとあてにはならないだろうと
見切りをつけたは早々に部屋を後にした。
仕方なしに直接本人の所に行って話をつけてこよう、と大胆な行動に出た彼女の前に、今度はニコルが現れた。









「あれ、、どうしたんですか?
 元気ないですよ?」
「ねぇニコル。アスランっていつからあんな機械がお友達~みたいな人になったの?」
「いつの間にかこうなってたみたいですけど。
 まぁ、アスランといいといい、黙ってればこれ以上ないほどに素敵な方々なんですけど、
 中身が2人ともこうですからね。
 あ、僕はのその性格も素敵だと思いますけど。」




「うん。今ちょっと引っかかる所もあったけど、
 私もニコルのそういう嫌にはっきりとした物言い嫌いじゃないし、軽くスルーしとく。」







ニコルの毒を見事にかわし、逆ににこりと微笑んだを見てニコルは思った。
似たような顔をした2人だけれど、の方が彼の何倍も要領も良くて人をかわすのも上手い、と。





















 イザークとディアッカの部屋に突然の来訪者があった。
何を隠そう、である。







「何か用か。」
「用がないと来ちゃいけないの?」
「帰れ。」
「な・・・っ!!」







この気の強い2人に任せていては、またもや部屋が破壊されかねんといち早く悟ったディアッカは
すぐさま2人の間に割り込んだ。
何とか事を穏便に済ませようとしたのだ。
が、その任務は彼には重すぎた。





「貴様は引っ込んでろ。今は俺とこいつが話してるんだっ!!」
「・・・すみません。」





イザークに軽く斬られたディアッカはそのまま他の部屋に非難しようとした。
彼が立ち去ろうとするときもまだ2人の言い争いは続いている。
今度はいったい何が原因で喧嘩をおっぱじめたのかは知らないが、
よくもまぁ、こんなに毎日毎日続くもんだと彼は内心感心する。
ひときわ大きくイザークの放った言葉は出て行こうとするディアッカの耳にも突き刺さった。











「そうやって、いちいち刃向かう奴と結婚なんて出来るかっ!!
 破談だっ!! こんな婚約、破局してやるぅっ!!」
「いーわよ、望むところよっ。
 せいぜい破局した後に後悔するがいいわ。
 あたしだってねぇ、好きであんたなんかと婚約するもんですか!!」








この一連の騒ぎは部屋を飛び出したディアッカの手でアスラン達にも知る所となった。
3人が慌ててイザークとの元にやって来た時にも、2人はまだ睨み合いを続けていた。







!!イザークと破談って・・・本気かっ!?
 だいたい叔母上方にはなんて言い訳するんだっ!!」
「お母様なんて関係ないもん! あたしはあんな人と一緒になんてなるもんですか。
 顔ばっかり良くっても、中身があれじゃ最悪よっ!!」





「あたし・・・?一人称・・・。」
「その言葉そっくりそのまま返してやる!!
 貴様のような女など俺はいらんっ!!」







もはやどうにも手のつけようがなくなった2人を前に、アスラン達は為す術もなくただただ立ち竦んでいるだけだった。









目次に戻る