破談宣言から数週間。
意外な光景がクルーゼ隊赤に見られるようになったという。














Step:04  嘘は言ってないから
            ~ハロって案外賢かったり~












 恐怖をもたらす天使と異名を持つニコルは、その地位を脅かされていた時期があった。
意外なライバルは、クルーゼ隊加入直後のだった。
もっとも、こんな不名誉な地位にライバルも現役もいらない。
彼女がアスラン達に贈る恐怖の数々はいつもイザークを伴って起こっていた。
が、ライバルは突然消滅したのである。
理由は・・・、なんとあの2人があまり喧嘩をしなくなったのだった。















 「アっスラーーーン!!」








休憩室にの声が響いた。
呼ばれたアスランが笑顔を浮かべて声のした方を振り向く。
すると「ばふっ」、という効果音とともに可愛らしい少女が抱きついてきた。
誰であろう、である。
このよく似た色をしている従兄妹同士の2人がくっついていると、
彼らに関する知識のない者にはどうしても兄妹に見えてしまう。
もちろんそれはそれでも何の影響もない。









、どうかしたのか?」
「ううん。見つけたからっ!!
 用なんてないよ?」





笑顔でひどい事を言っている彼女にアスランはちょっぴり傷つく。
が、それも可愛い可愛い従妹のすることだから、何でも許されるのだった。





「そうだ、ほら、この間言ってたハロ、にあげるよ。
 色をカラーにしてみたんだ。」
「・・・本当に作ったんだ。
 ありがとう。できるだけ大切にするね。よろしく、ハロ。」
「ミトメタクナーイ!」






訳の分からない事を話すハロにはあまり期待を求しないでおこうとは思った。
が、このハロがトラブルを起こすとはこの時思いもしなかった。




















 翌日、またもや休憩室に現れたにイザークはイライラと声をかけた。







「おい、貴様。」





返答がない。なにやらハロをじっと見つめているようだ。
(何でアスランもっと可愛いの作らないんだろ・・・。
 やっぱりセンスないから? でも、キラのトリィは可愛いしなぁ・・・。
 もしかして!! ラクスこういう変なのが趣味とかっ!?)
はそんなことをぼんやりと考えていたのだ。
どんなに優れた人間でも、自分の世界に入っているのに他人の話など聞けるはずがない。
ももちろん今の状況ではイザークの話など聞けるものじゃなかった。











「聞いているのかっ!!」
「あ~、ごめん、何?」






イライラが増して、立ち上がっての目の前にまでずかずかと歩み寄って来た彼は、
必要以上の大声でを怒鳴りつけた。
あまりのその声の大きさと、人の気配からはようやく我に返る。
すると目の前には怒りを含んだ目でこちらを睨みつけているイザーク・・・元婚約者の姿が。







「そのうろちょろとする奴をどうにかしろ!!
 気が散って本も読めん!!」





そう言われて見てみると、カラーのハロはあちこちをぴょんぴょんと飛び回って、
確かに本を読む環境では気が散ってならないように思われる。
だが、どうにかしろと言われた所で、このハロは勝手に動き回るので、持ち主のにどうこうできる話でもない。
しかも、彼女は機械関係についてはあまり得意分野とは言えないので、
うかつにハロをいじくろうとして、さらにおかしくなってしまっても困るだけである。
だからこうやってうっちゃっておいたのだ。







「しかもなんだ!! 貴様のハロの癖をしてアスランカラーではないか!!」
「アスランカラーじゃないもん!!
 ほら、ちゃんと見てあげてよ。
 一応目が水色でしょ。これがカラーらしいわよ。」








目が青かろうと水色だろうと、緑色だろうと、今のイザークにとってそのハロは邪魔な以外の何物でもない。
しかも、それの製作者がアスランと言うのがまた気に入らないのだ。
エースパイロットだけに留まらず、かなり変な方向にそれを発揮されてはいるが、
多彩な能力を持つアスランはいつだってイザークのライバルだった。
それも一方的にイザークの方がライバル視しているので、実際の所はどうだか分からないのだが。
そんな彼の能力の結晶とも言えるべき物体をが持って、
しかも自分の前で見せびらかしているというのが彼のプライドを激しく傷つけた。
は決して見せびらかしているわけではないのだが、一緒にいないとアスランに、







「俺の作ったハロは? もしかして・・・。」



などといろいろと詮索されるのが面倒なので持って来ているだけなのだが。










その時、ハロがなにやらしゃべった。






「イザークモトコン~~。」
「「もとこん??」」











単語入力をするのはアスランだと聞いた。
だからアスラン好みの単語を入力することだって出来るのだろう。
では、この『もとこん』とはなんだろうか。
とイザークは互いに意味を聞こうとして同時に顔を見合わせるが、そうやっている辺り、
2人が答えを知らないということは容易に分かった。







「・・・アスランに聞くしかなさそうね・・・。」
「貴様が聞いてこい。面倒な内容でも困るしな。」





これが果たして、先日喧嘩に次ぐ喧嘩の果てに破談をした男女の会話だろうか。
いや、誰もそうは思わないだろう。
しかも確実に2人の喧嘩の回数は減っている。
妙な束縛が取れて、ようやく自由になったからであろうか。
ここだけ見れば、なぜ二人が破談したのか疑われる光景である。
そしてこの事は、周りのディアッカ達にしてみれば、信じられるようなことではなかった。
アスランはまあ以前のの性格を知っているためにそんなに驚きはしなかったのだが、
ニコルとディアッカ、特にディアッカは突然のイザークの変貌振りには別の意味で恐怖を感じるほどだった。
彼にとってイザークは、終始機嫌の悪い、というイメージが定着していたのだろう。











話を元に戻す。
とイザークが難しい顔をして単語の意味を考えていると、アスランがやって来た。







「あ、アスラン、あのね、さっきハロが『もとこん』って言ったんだけど・・・?
 あれってどういう意味?」
「もとこん・・・、あぁ、元婚約者の略だよ。
 事実だろ?イザークはの元婚約者。
 今はただの同僚。」
「アスラン・・・。貴様・・・。
 このような言葉を覚えさせおって!!」






久々にイザークがキレた。しかもアスラン単独に対してである。
ちょうどその時ディアッカ達もやって来た。
が来てから久々に見る、イザークのアスランに対する逆ギレを見て、ため息をつく。





「なに、なんかあったの?
 には関係ないのか?」
「何で私が関係しなくちゃなんないのよ。
 ハロがね、もとこんって言ったのよ。元婚約者の略ですって。
 面白いこと吹き込むわよね、アスランも。」
「で、それでイザークがアスランに対してキレた、と。
 なんででしょう?」









明らかに傍観者の側に立ったは今度はなぜイザークがキレてしまったのかをニコル達と考えてみる。
理由はなかなか思い浮かばない。
と、そこでディアッカが、






「イザーク、もしかしてお前今更になってとの婚約解消、後悔してたりする?
 そりゃそうだよなぁ~、俺だっての気の強さがこのくらいだったら我慢できるもんな~。」
「僕はイザークがどうして自ら幸せになることを拒否したのかが未だにわかりません。
 は素晴らしい女性じゃないですか。
 イザークは幸せにはなりたくないのでしょうか。」
「そう考える人もいるんじゃない?
 イザークとかちょっと変わってるし。
 人の好みもそれぞれだし。」






外野から言いたい放題言われているイザークはますます機嫌が悪くなっていく。
こんな事を言われていては、彼でなくても機嫌は悪くなるだろう。
一方アスランはその間に見事にイザークの包囲網から抜け出して、
に向かって言った。





「破談した事、まさか後悔なんてしてないよな。」
「してないわよ。だってきっと破談しなかったらまだイザークと喧嘩ばっかりしてたと思うし。
 それはそれでよかったのよ。
 だいたい、同じ職場にそういう関係の人がいても困るでしょ。
 妙にギクシャクしちゃって。」








お前ら2人の場合はギクシャクなんて可愛いもんじゃなくて、危うく艦が破壊される恐れにあったんだよ、
と3人は心の中で突っ込んでみる。
心の中で言う事は、どんなにひどい事を言ったって、それを口に出しさえしない限り被害は受けない、
という事ぐらいディアッカでも承知している。





「貴様ぁっ!! 話はまだ済んでないぃっ!!」
「ああごめん。じゃあなに。
 もとこんは消せばいいのか?」
「そういう問題じゃなぁいっ!!」






この後も『もとこん』についていろいろとイザークが叫んでいたが、
結局ハロのプログラムを変える、という事で決着がついたようだった。
時間がかかった割には安易な結末である。
























 その日の夜、は1人で本を読み耽っていたイザークにちょっと話しかけてみた。








「あのですね。」
「俺の名前はイザークだ。名前で呼べ。」
「・・・イザーク、あなたって本当にムキになる事しか特技ないのね。」
「なんだとぉっ!?」







初めて名前で呼ばれ、少しは気を良くしたイザークはに言われた言葉にまたイライラ度が募る。
可愛い顔して案外毒舌、さらに本人はまるで悪気がないというのだから、尚更性質が悪い。
幸いなのはその毒舌がニコルの域に達していないことぐらいだろうか。





「嘘よ嘘。でもさ~、たかが『もとこん』って言われたぐらいで
 あんなにアスランに食って掛かるとは思わなかったし。
 そんなの本当の事だし、あの略じゃ他の人にはどんな意味なのかすらわかんないのに。」



「俺は、昔の事を蒸し返されるのが好きじゃないんだ。
 今回だって、言われていい気はしないだろうが。
 ・・・貴様にとっても。」
「まぁ、ね。」








時折見せる、その不器用な優しさをもっと普段から見せていれば、『もとこん』なんて単語を登録されることもなかったのに、
は小さく呟いた。
その声はしっかりとイザークにも聞こえている。
コーディネイターは耳がいいのだ。






「貴様・・・、その口は治らんのかぁっ!!
 持病か!? どこでそんな事覚えた!! の家でかっ!?」
「な・・・っ!!失礼ね!!
 人がせっかく褒めてあげたのに!!」
「貴様ごときに褒められてもなんともないわぁっ!」
「なんですってぇっ!?」








どうやら、この艦から喧嘩が消えたというのはデマだったらしい。









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