この仲はまだ秘密。
でもいつか、本当の平和がやって来たら言えるよね、あなたにも。














Step of Last  宇宙の恋人たち
            ~もちろん私と彼のこと~












 すっかり有給を使い果たし、再び軍艦へと戻ってきたイザークと
本当は他の人にこの婚約者関係は言いたくなかったのだが、アスラン達は別口だ。
イザーク達は誰にも口外しないようにと固く口止めして、こうなった経緯を話して聞かせた。
まだ惚気を言うほどの深い仲にはなっていないので、かなり忠実な話を彼らは聞けたはずだ。
しかし、いざ話したものの、3人共脱走までは大方知っていたので、そこは割愛したのだが。





「へぇ~・・・。ほんっと信じらんないよな。お前ら2人が婚約しただなんて・・・。」


「そうですよね。僕なんて、2人いつか撃ち合いでもするんじゃないかって思ってヒヤヒヤしてましたよ。」



「俺は認めないぞ。」




 ディアッカとニコルは驚きながらも祝福してくれたと言うのに、アスランだけは1人ぶすくれた顔をしている。
相変わらず沸点の低いイザークがアスランを思い切り睨みつけながら、なぜだと聞く。







「2人共婚約したってことは、いずれは結婚するんだろ?
 俺はイザークと親戚になるのは嫌だし、は嫁に行くのも嫌だ!!」





そう言うとアスランは、の手を掴むと彼女に詰め寄ってかき口説いた。
言われているは明らかに引いているし、白けてもいる。





、世の中広いんだ。こんな近くよりももっと遠くに、にぴったりの男がいるかもしれないぞ!?
 確かに俺みたいによく出来た男は他にいないにしても、イザークよりもいい奴はもっと・・・!!」



「アスランには関係ないでしょ。これは私とイザークも問題なの。」



「そうですよアスラン。いい年してみっともないですよ。」




から軽くいなされ、ニコルから止めを刺され再起不能に陥るアスランは、それからしばらくは黙っていた。
うるさくなったのはイザークの方だ。
彼はの左腕を掴み挙げると、しきりに薬指を指差して怒鳴った。





っ、貴様この間やった指輪はどうした!?
 肌身離さず持っておくと自分から言っておっただろうがぁっ!!」



「な、なによっ。ちゃんと持ってるわよ!
 人に知れたらまずいって言うから、チェーン通してここにかけてるのに!」




いつもの調子で怒鳴り返すと、は自分の胸元を指差した。が、制服の下にしまい込んでいるので見えない。
疑念の残る目で見つめてくるイザークに嫌気が差したは、いきなり上着を脱ぎ始めた。
当然イザークは驚き、彼女の行動を止めさせるし、それに対してブーイングをしたディアッカにアスランが銃口を向けるしといった光景が見られた。




「馬鹿か貴様はっ!! こんな所で脱ぐ奴があるか!?」


「でもアンダー着てるし。・・・そりゃあんな変な指定のじゃないけどさ・・・。」



「もうわかった! だからこいつらの前で脱ぐな!!」



「イザークと2人っきりの時に、こいつがの服脱がしてくれるってさ。」







ディアッカの余計な一言に場が凍りつく。
数秒後、彼の悲鳴が上がったのは書くまでもないお決まりのパターンだ。
そしてこのほのぼのとした会話があったしばらく後、戦争は多くの悲しみを残し終わった。




































 休戦後、軍人職を退いたりゼルは家でのんびりとした生活を送っていた。
といってもダラダラとしている訳ではなく、滅多に人のいる時がないザラの家の掃除をしに行ってみたり、
暇になればディアッカの家に入り浸って、イザークに叱られるという日常だったのだが。
イザークは戦後処理に忙殺されてはいたものの、愛するのために毎週1、2日は予定を組まずにとの日に設定していた。
そうでもしてを引き留めておかないと、彼女はよっぽどの事がない限り、エザリアには会えど自分には会いに来ないのだ。
イザークも必死だ。










 「お嬢様、今日はどちらに?」



そんなある日、簡素であるが普段着ではない服を身につけたを見て、メイドの1人が尋ねた。
この活動的なお嬢様がずっと家にいるなんてことはとても考えられないのだ。
は玄関で帽子をかぶりながら答えた。
左手の薬指には時折青くきらめく指輪がちゃんとはまっている。





「今日はイザークと博物館に行くの。なんか『世界の民俗展』やってるって。」




そんな展示見てもおそらくイザークしか話がわからないだろう。
は本は読むし、歴史も好きだが民俗学についてはあまり知らない。




「ま、その展示自体はほんの1フロアだけだし。
 だから私も話に乗ったの。そうじゃなかったら断ってたかも。」





そう言っては少し苦笑すると、じゃあねといって外に出た。
現地集合だから遅刻は出来ない。

















 「、民俗学は面白いだろう。今度本をいくらか貸してやる。
 オーブの言葉だが・・・、読めるな?」




 博物館から出てきたイザークは上機嫌でに話しかけている。
艦内では静かにするのが常識だからおとなしくしていたものの、あまり会うこともなく、話すら多くはないので、最近のイザークはに対しては饒舌だ。
次から次へと話題を提供してくれる。
そしてもそんな彼の言葉に笑顔で答えていく。
彼女も今日見たどこかの民族の使っていた狩猟用の木製の武器は、なかなか硬度もありそうで棒術の棒としても使えそうだったと思ったからである。
見ている所は全く違うが、それで会話が成り立つところが面白い。





「そうね、歴史って古いからいいよね。私もあの棒すごく良かったと思う。
 オーブの言葉は読めるよ。アスランがいりもしない教本送って寄越すから。」



「棒か? まぁいい。従妹離れの出来ない奴だな、あいつも。」





 今ここにアスランがいたとしても、イザークの言葉を否定しなかっただろう。
何かあればすぐにメールを送りつけてくるし、しかも必ずイザークとの仲は認めない、というような趣旨の内容で文が結ばれている。
そのしつこさはもはやうっとうしさしか生み出さない。
メールにいちいち丁寧に返事を送っているも、かなり筆まめな子である。






















 「私ね、今、幸せなんだと思う。」





潮風にあたりながらは呟いた。
誰に話しかけているのかわからなかったが、イザークはの肩をそっと抱いて答えた。




「俺も今、幸せだ。こうしている事に喜びを感じる。」


「悲しかった事もあったけど、こうやってその悲しみの上に立ってる私達ってすごく幸せだと思う。」




はイザークの顔を見つめた。
真剣な顔で見つめて言った。





「だから、ずっとこのままでいたいって思うのは私の傲慢、わがまま?」


「違う。俺も同じ事を思っていた。と、離れたくないんだ。」




 2人の思いが1つに重なる。2人の影もひとつに重なろうとして、があっと声を上げた。
風での帽子は飛ばされたのだ。
ムードをぶち壊して飛び続ける帽子を追いかける
ふわふわと飛んでいく帽子を、軽やかに走って取ろうとする彼女を見て、イザークは微かに笑った。




 とそこに、1人の少女がイザークの前を通り過ぎた。
キラキラと光る何かが彼女から落ちる。
それがあまりに小さかったためか、少女は気付かずに歩いていく。
イザークは彼女が落としていった物を拾い上げると、どんなものかよく確かめもせずに小走りで少女に追いつくと、おい、と声をかけた。





「これを落としていかなかったか? お前のだろう?」


「え・・・? あ、これ・・・!!」






 と出会って女性に対する免疫ができたのだろうか、イザークは極力優しい声で呼び止めると、少女はくるりと振り返った。
彼女の顔を見てイザークは思わずうなりかけた。
背中まで伸びた、艶やかな濃い目の茶髪を首の付け根で1つに結び、健康的な白さを保つ頬によく映える、
黒々とした大きな澄んだ瞳を持つこの少女は、稀に見る美少女だったのだ。
自分やよりも1つか2つ幼く見えるのだが、彼女の発するオーラは同じ年頃の少女達と比べると、異常なまでに落ち着いていた。
少女はイザークの手から落としたもの・・・、大きすぎない上品なルビーを施したイヤリングの片方をそっと取ると、
大切そうに胸に当てて、イザークに深々と頭を下げた。








「ありがとうございます。・・・このイヤリング、昔大切な人からもらったんです。
 私と彼女をつなぐ道だって・・・。本当に良かった!!」




顔をぱあっと輝かせて喜ぶ少女を見ていると、イザークも心が少し温かくなった。
とは違うぬくもりを持った少女だった。





「失くさないように気を付けるんだな。」


「はいっ。」





お互い笑い合っている所に、、と少女の名前であろう、鋭い声で呼びつける男の声がした。
その声を聞いた途端、少女は顔を曇らせたが、またすぐに微笑むともう1度深く頭を下げ、声のした方へと走り去って言った。
、という名前にどこか聞き覚えがあったような気がしないでもなかったが、イザークは思い出せないまま少女の後ろ姿を見送っていた。









 「やっと捕まえたわっ!! あれ、イザークどうしたの、そっちの方向いちゃって。
 ・・・女の子?」



「あぁ・・・。さっき少し話をしたんだ。
 感じのいい、なかなか見目のいい子だった。」






イザークが淡々と答えると、は驚いたように言った。



「へー、イザーク他の女の子とまともに会話できたのー!?
 それとも向こうの子が気を利かせてくれたのかしら。」


「馬鹿か。くだらん事を言ってないで帰るぞ。冷えてきただろう。」







 イザークは気を取り直してそう言うと、自分の上着をに着せ掛けようとした。
が、その直前にはバッグから自分の上着を取り出してちゃっちゃと羽織る。
イザークの紳士的な振る舞いも、の前では全て無効化されてしまうのだ。
親切の空振りほどその後の手のやり場に困るものはない。









・・・、今日はの家には帰さんからな。」


「は!? 嫌よ、私帰るもん。」



「四の五の言わずに今日はうちに泊まれ。言っただろうが、離れたくないって。」



「わ、ちょっ、待ってよ、そういう意味じゃないってば!!」










この後、が家に帰ったのかそうでないのかは、この物語の語る範疇ではない。







―完―








目次に戻る