闇に七色の光




 たちは闇の世界に来ていた。
この世界の生き物すべてには、色がなかった。
ソレはレティシアに住む人々たちにも言えることで、彼らはたちを見てそれはもう驚いていた。
異郷ではなく、異世界の人だったからだ。
レティシアの人々は、神鳥に悩まされていた。
最近、レティスが村を襲うようになったというのだ。
それは、神鳥としてあるまじき行為だった。







「レティス本人に会わなきゃわかんないな。
 きっと何か理由があるんだよ。」


「俺らを襲ってきたらどうすんだよ。
 相手は神鳥だぞ?」


「まぁ・・・、正当防衛は認められるんじゃないかな。」








 たちはレティスがいるという地へと向かっていた。
相変わらずの姿は見えず、葉っぱだけが浮いている。
村の中では、超常現象だとか言って騒がれたものだ。
やがて、丘の上に光る巨大な鳥が見えてきた。
あれが神鳥レティスだろう。
なんとも神々しい姿である。







「あのレティス!
 僕らはあなたに会いに来たんだ!」


「・・・・・・。」







 いきなりレティスは空高く舞い上がった。
かと思うと、に容赦ない体当たりを仕掛けてきた。
不意を衝く攻撃に、軽く吹っ飛ばされる
葉っぱの辺りからっ! と叫ぶの声がした。







「襲ってきたな・・・。
 しゃーない、戦うか。」





 ククールたちはそれぞれの獲物を構えた。
ヤンガスがレティスに向かって斧を振り降ろす。
しかし、硬いものにぶつかった音がするだけで、ダメージを与えることができない。






「こ、攻撃が聞かないでがす!」


「だったら呪文だ!」






 ククールは左手を力強く横に払った。
巨大な渦巻きがいくつも起こり、レティスの身体を切り刻まんと包み込む。
彼の攻撃に続くように、ゼシカも氷柱を叩きつける。
2人がレティスの相手をしている隙に、の元に駆け寄った。






、大丈夫!?」


「うん・・・、ちょっとびっくりしただけだから。
 なんでレティスと戦わなきゃいけないんだろうね・・・。」



「ほんとにどうして・・・。」







 は立ち上がると、を庇うように立ちはだかった。
そして空を指差し、高らかに呪文を詠唱する。





「太古の光よ 今ここに蘇り その怒りを地に注げ イオナズン!」





レティスを巻き込んだ大爆発が起こる。
今ではすっかりの十八番となったこの爆発呪文だが、どこから発せられるのかわからない今では、その強さも数倍だ。
煙がレティスの姿を消した。
が再びレティスを発見したとき、彼女はの目の前に迫って来ていた。
間に合わないと思った。
身体がひどく軽くなった。
地面を蹴る。
足が大地から離れ、そのまま上昇する。
気がつくと、レティスと空中で対峙していた。
レティスの素早い攻撃を、すんでのところでかわすこともできる。







「私・・・、飛んでる?」






 は小さく呟いた。
そうでなければ、こんなに自在に宙を舞えるわけがないのだ。
だとしたら、今地上のたちの目には、さぞかし奇妙に見えていることだろう。
レティスがずっと空を飛んでいるのだ。
このままメラゾーマとか唱えてもいいのだが、炎の出所が空中だったらたちは驚くだろう。
なぜあんな所から、と疑問も抱くだろうし、それをに尋ねてくるだろう。
なぜ、と問われてもはっきりとした答えを言えないは、その作業が少し面倒だと思ってしまった。
は突然急降下を始めた。
ほとんどまっすぐ地上に突っ込む。
彼女の後をレティスもしっかりと追っていた。
は小さな声で呟いた。






「灼熱の炎玉 すべてを焼き尽くせ メラゾーマ!!」






 地面に触れる直前に、は身体を反転させた。
そして、両手の中で膨れ上がった炎の玉をレティスに叩き込んだ。
業火に焼かれ身悶えするレティス。
の背中に衝撃が走った。
背中から地面に思いっきり突っ込んだのだ。
痛いに決まっている。







「レティス! 話をしたいの!!
 目を覚まして、私たちを見て!」







 はよろよろと立ち上がると叫んだ。
身体が思うように動いてくれなかった。
先程空を飛んで体力を使い果たしたからだろうか。
慣れないことをするものではない。






、そこらへんにいるのなら動かないで!
 どこ!?」






 が葉っぱを片手にうろうろとやって来た。
は彼の手から、イオナズンの影響でやや焦げた葉っぱを取ると、少し離れたところで落ち着いているレティスの元へと走った。
火傷の痕などない。
自己回復でもしたのだろう。
出会った時と同じ美しい姿をたちに見せていた。
ただ、その瞳はどこか哀しそうだった。
レティスは静かに口を開いた。
戦う気は、もうないようだ。







「まさかあなたがこの世界に来ることができたとは、思いもしませんでした・・・、。」


「・・・どういうことですか?」




「・・・本来、あなたのような闇を忌む種族はこの闇の世界に入ることすらできません。
 今まで、よほど多くの闇の中を巡ってきたのですね。」







 そう言うと、レティスはたちの方へと向き直った。
1人1人の顔を見つめ、ゆっくりと頷いた。






「危害を加えたことは、どうぞ許してください。
 けれども・・・・・・、今の私には自由はないのです。
 私の子を・・・、卵を助けてください。」







 たちは顔を見合わせた。
レティスがレティシアやを襲ったのは、何者かに弱みを握られているからだということは理解した。
彼女の話し方からして、おそらく彼女の子どもはそやつの手の中にあるのだろう。
レティスを助けない理由はどこにもなかった。






「・・・わかりました。
 僕たちも、あなたの力が必要なんです。」






 レティスは大きく優雅な翼を広げた。
その背に乗れと合図する。
たちを乗せたレティスは、高くそびえ立つ塔へと飛んでいった。



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