魂の導く先



 は前を歩くたちの背を追いながら、ぼんやりと考えていた。
レティスと戦った時、確かの彼女はのことを、『あなたのような闇を忌む種族』と言った。
そうだろう、とあっさりと思った自分がいた。
人間ならば、危機が目前に迫っていようと空は飛べまい。
あれはジャンプではなかった。
明らかに、浮いていた。
自分は何なのだろう、と漠然と黒と白の空間、いわゆる闇の世界に問いかけてみる。
マイエラ修道院でマルチェロに保護された以前が、まったくわからない。






「わからないんじゃなくて、初めからなかったとしたら・・・――――。」






 自分で呟いてみて、ぞっとした。
どうしてこんなことを考えてしまったのだろうと、頭をポカポカ叩く。
やや焦げた葉っぱがの手から零れ落ちた。
とん、とすぐ前を歩いていたククールの背中にぶつかる。







「あ、ごめんねククール・・・?」






 は葉っぱを拾い上げた。
空気がピリピリと張り詰めているのを感じた。
そういえば、先程ククールからの返事はなかった。
それほど油断ならない事態が発生したのだろう。
はククールの肩越しに前を見やった。
突然、鋭い爪で身体を捕らえられた。
え、と小さく叫んだ次の瞬間、の華奢な身体が乾いた土の壁に叩きつけられた。
どがっという音が耳元でした。
きっとこの音は、肩だが壁にめり込んだ音なのだろう。
は真っ青な顔をしてこちらを向いているゼシカを見て確信した。
は恐る恐る腕を動かした。
とりあえず、動いた。
腕が血まみれになっているように見えなくもないが、いかんせん今は透明人間状態なので、はっきりしない。
はその体を癒すべくベホマを唱えた。
しかし治癒能力が低下してしまったようで、あまり良い効果は見られない。






「貴様の魂ごと喰らい尽くして、更なる力を手にしてやるわ!!」






 妖魔ゲモンはたちに目もくれず、壁に叩きつけられたままのに襲いかかった。






「そんなことさせるか!」






がきん、と目の前で火花が散った。
がゲモンの爪を剣で受け止めていたのだ。
はものすごいスピードでククールを横切り、彼の後ろにいるであろうを襲いかかった時、凍りついた。
葉っぱはひらひらと塔の下へと落ちていき、壁には人の形をしたくぼみができた。
はそのくぼみを見た瞬間、意識がぶっ飛んだ。
何も見えなくなった。
心にあるのはただ、愛する人に酷い仕打ちをした魔物を倒すことだけだった。
レティスも、レティスの卵ももう、どうでもよかった。
力任せに剣を振り下ろす。
いつもの戦闘体勢とはかけ離れた戦い方に、ヤンガスは唖然とした。
長年兄貴と慕ってきたが、あんなに穏やかな彼がこうまで猛々しく変貌するのは初めて見た。
まるで、心を失くした狂戦士のようにも思えた。
土がぱらりと崩れた。
続いて、どさっという重たい音と荒い息遣いも聞こえた。








! 待ってろ、今、回復するからな・・・。」







 ククールは指先に触れたの腕を優しく握ると、呪文を詠唱し始めた。
彼女の姿が見えないのでどれだけの怪我の具合かわからないが、決して軽くはなさそうだった。
現に、今握っている腕からも出血しているようだ。
はククールの治療を受けながら、途切れ途切れになる声で尋ねた。







・・・は・・・?
 卵は平気・・・・なの・・・・・?」



「あいつ今少しおかしくなってる。
 周りが見えてないっつーか・・・。」







 の姿を探した。
なんだかえらく身体がビカビカ光っている。
怒りのオーラを身に纏っているのだろうか、迂闊に近づくと弾き飛ばされそうで、ちょっと怖い。






「ありゃ完全にブチ切れてるだろ・・・。
 モグラのときよりもすげぇ。」


「でもこのままじゃ、卵も割っちゃいそう。
 それだけはやめなきゃ・・・。」







 ククールの治癒呪文のおかげでなんとか傷を塞いだは、くらくらする頭を抑えながら呟いた。
今ののあの乱暴な戦い方では、剣の切っ先が卵に触れかねない。
はゆらりと立ち上がった。
じっとしてろよ、と言うククールの忠告も無視して、そっとゲモンの背後に忍び寄る。
そして相手を氷漬けにして動きを止めるべく、マヒャドをぶつけた。
体力・魔力の消耗が激しい中での呪文だったので思うような効果はなかったが、それでもゲモンを怯ませることには成功した。
はゲモンの足元に放置してあるレティスの卵を大事そうに胸に抱えると、大きな声で叫んだ。







っ、私は大丈夫だからね!!」


・・・・・。・・・・良かった。」






の身体から怒りのオーラが消えていく。
顔の表情も心なしか穏やかになる。
は戦闘の邪魔にならない場所まで退くと、渾身の力を込めて結界を張った。
卵が易々と奪われないように。
ただ、この結界の力が持つのはの魔力があるうちだけだった。
あまり永くは持たない。
果たして間に合うかどうか。
正気に戻ったは、のことが気にかかりながらも再び剣を構えた。
できるだけ彼女に負担をかけないように、素早くざくっと。
への想いが、をさらに強くさせた。
高く飛び上がり、十文字に切り裂く。
断末魔の悲鳴を上げるゲモン。
ゲモンは卵をぎろりと睨み据えると、最後の力を振り絞り、卵に向かって突撃した。















「あ・・・っ!!」







 ピシッと乾いた音がして結界が破られた。
ゲモンが卵を踏みつけた。
ニヤリと笑い、直後にに止めを刺される。
夢が割れる音だった。
ゲモンの屍を前に、は硬直した。
目の前で結界が破られ、そして卵が、命が失われた。









「ごめんなさい・・・・・・。」






 の身体がぐらりと前のめりに傾いだ。
体中がもう限界だと悲鳴を上げていた。
ふわり、と温かなぬくもりに包まれ、はそのまま眠りについた。






「レティス・・・・。」


「・・・・卵は、割れてしまったのですね・・・。」








レティスは悲しげに割れた卵を見つめた。
自らの羽根の中で死んだように眠るこの少女に、魔力はもうほとんど残っていなかった。
むしろ、これ以上力を酷使していれば、彼女は肉体・精神もろともに消滅していただろう。







「私の子どもが・・・・・。」


『・・・お母さん、ボクは平気だよ・・・?』






 奇跡とはこういうことを言うのだろうか。
卵から金色の光が現れ、喋ったのだ。
それは、子どもの魂だった。







『この人たちを責めないで。
 ・・・さんはずっとぼくを守ってくれていたんだ。
 ボクのために、一生懸命戦ってくれたんだ。
 ・・・だから。』






 レティスの目から涙が零れた。
魂だけの存在となり、それでもなお健気な我が子をそっと抱き寄せる。
とても美しい親子愛だった。



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